話題:SS





「…ごめんなさい」

勇気をもって告白してくれた男性に、
私は深々と頭を下げた。

「そんな気は、してたけど」

苦笑いを浮かべながら、
彼は後ろ頭をポリポリと掻く。

「好きな人、……いるんだ?」

「ん……」

そうだ、と肯定することも。
違う、と否定することもできずに
曖昧な言葉を返す。

私があの人と…結ばれることは、決してないのだけれど。
それでもまだ、自分の気持ちに整理をつけられないままで、
新しい恋に、進むことはできない。


今。彼の手を取れば
もしかしたら私はあの人を忘れることが
できるのかもしれないけれど。


あの人を忘れる為に、誰かを利用したくない。

彼の好意につけ込むことは、
結局は彼を傷つけてしまうことになると
恋愛経験が豊かとは言えない私にだってわかること。

「気持ちだけ……ありがとう」

「まだ、チャンスあるかな?」

「えっ!」

どうやら彼はかなりのチャレンジャーらしい。

「だからって明日改めて告白はしないけど」

「……うん、」

嬉しいのか、
嬉しくないのか、
よく分からない感情が渦巻く。

こんなに思われているのに。

――バカ、ね

「そんなに困った顔、しないでくれるかな?」

「あ……」

無意識のうちに、眉間にシワがよっていたようで
慌てて片手を頬に当てる。

「心配しないで。困らせたい訳じゃないから」

「……ごめんなさい」

謝るのは。
これで何度目だろう。

謝罪の言葉を口にする度に、
私は彼を傷つけている。

「じゃ、俺はこれで」

「あっ……」

伝票を素早い動きで抜き取って
彼は私に背を向ける。

ひとり、取り残された喫茶店で
ぬるくなったストレートティーを手に
琥珀色の液体をゆらゆらと揺らす。


どうしよう。


叶わない恋なのに。
私の想いは届かないのに。



今でもまだ。



あの人が。



――好きなんです。






-END-

(自分を好きでいてくれる人を、好きになれたら幸せなのに。
それが出来ないもどかしさ……でも、それが恋というもの……かな?)