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2020.1.12 17:36 Sun [autumn]
【Sample】爪の先
「あら?」

彼女の指先が、目についたのはもう終盤になってからだった。そんなことを気にしている余裕なんてなく、彼女の存在はカルタふだよりも、ずっと外にあったから。

うっすらと目を細めて丸くなった爪を見る。人差し指の先、欠けているのが分かった。勝ちはもう見えていたから余裕があったせいか、私はつい疑問符を口にしてしまった。

爪の先。割れたところで痛みはなく、彼女もまた気にならないのか、野心を飛ばす瞳に宿るのは私に向けた強い敵意で、思わず微笑んで誤魔化すことにした。

「……なんやね」
「なにも。終わったら教えます」
「余裕があるんが、ムカつく!」
「貴方にはまだ、負けません」

テープの声を拾って、右手で思いきり札を払った。取り逃した彼女の手が舞う。あぁ、やっぱり気にならないのか……白い爪がカルタふだに傷つけられることも。

「ああっ!」
「油断大敵です、葉っぱちゃん」







「……爪、痛くありません?」
「爪?えっ、どこ?」
「人差し指の先です。」
「あっ……ほんまや」

カルタふだを片付ける最中、私が指摘するとようやく自覚したのか、まじまじと見つめるその指。カルタもまたスポーツであり、突き指や腱鞘炎を起こすことも多くある。元々、彼女自身は合気道の選手も兼ねたゾンビ部員だと笑い話にしていたが、その辺りも含めても女性。……きれいな指を傷付ける事に、代わりはない。

ネイルでカバーした指先の紅葉が、わずかに欠けていた。練習でさえこうなるのだから、なにもしていない彼女の指はダメージが大きいに違いない。慣れていない相手でも本気で戦うスタンスに、今日だけは少しばかり緩めそうになったのは秘密にしておきたい。

「でも紅葉も欠けてるんやないの?」
「私は代えがあります。貴方は違いますやろ?慣れていない内は、手の使い方も気を付けた方がよろし。折角、歯応えが出てきましたのに」
「……さすが、女王様やな。」
「おおきに。……せや、これ」

私はバックから絆創膏を取り出し、彼女へと渡した。いつも持ち歩いているだけで、特別なことではない。

「なに?」
「平次君の為です。貴方が怪我をしたら、悲しみますから。それで巻いておき」
「……」
「なんです?」

受け取った絆創膏と私を交互に見つめて、彼女はムッとしたり、頬を緩めたりと忙しい顔をしていた。早い話が動揺していて、……可愛くて。

「……お、おおきに……紅葉」
「どういたしまして、葉っぱちゃん。次やる時は、もっと楽しませてくださいね?」
「……っ、わっ、わかっとる!あんたこそ!首洗って待っときー!」
「ふふふ、その時は平次君もお願いします」
「嫌や!」
「あら?好きな殿方の前だと緊張しはって……余計、勝てへんのかしら?」
「うっ、うるさいわ!」

ほんま、可愛い子やわ。
私の色になるのは、いつのことやろか?





end.


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