話題:突発的文章・物語・詩


「私最近気がついたんだけどさ」

それまで鏡の前で化粧をしていた口裂け女が口を開く。
薄暗く人気の一切ない廃校の女子トイレ。
ここで口裂け女は活動前に化粧をしつつ、トイレの花子さんと他愛ないおしゃべりをするのが日々の恒例となっている。

「貞子と伽椰子って美人だよね」
「それな」

カラコンを一生懸命入れていた口裂け女に「アンタそれ必要?」と疑問に思っていたことも忘れて花子は間髪入れずに賛同した。
因みにカラコンは口から上の美人度を上げることに執念を燃やす口裂け女には必要不可欠だ(これがあれば黒目が一回り大きくなるのだから!)。
花子の食いつきように気をよくした口裂け女は上機嫌に話を続ける。

「貞子さ、大抵古井戸にいるから肌白いよねー羨ましいわー。あと伽椰子の息子の俊雄?あの子も普通にしてりゃあ可愛い顔してんじゃん」
「そうそうそうそうそう!俊雄いいよね!」
「食いつきすげぇな。もしかして俊雄のこと好きなん?」
「いや全然」
「ならなんでさっき俊雄いいっつったよ貴様」

観賞用としてのいいと恋愛としてのいいは違うじゃない、と曰いながら花子は意味もなく足で和式トイレのレバーを踏む。廃校の女子トイレではもちろん水が流れることはない。
ああそういうことね、と納得しながら口裂け女は頬にチークを付けた。
「あんたチークつけてもマスクで隠れるじゃん、意味ないじゃん」とやっぱり心の内で疑問に思いながらも花子は口にしなかった。花子なりの優しさである。
そんな花子の気遣いも露知らず、口裂け女はチークをポーチにしまいながら「伽椰子や俊雄に花子は見た目ロリだけど中身ババアだから気をつけろって言っちゃったから花子が俊雄に惚れてなくて良かったわーマジ焦ったー」と一人安堵していた。

「それに俊雄を好きになっても伽椰子が面倒くさそうじゃん」
「それな」

花子の言葉に今度は口裂け女が間髪入れずに賛同する番だった。
こうして口裂け女と花子は鬱々とした女子トイレで話に花を咲かせていく。

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ここまで書いたけど呪怨は見たことない。