24/04/21 17:57:
▼落乱:
2.若い頃の話

エミのことは、お互いに気を遣わず、ありのままでいられる居心地のいい相手という認識だった。

物心つく前から一緒に過ごす時間が長かったというのもあるし、父親同士の仲がよかったというのもあり、気付いた時には一緒にいるのが当たり前になっていた。

さらに父親達の思い付きで私とエミは許嫁になり、それはお互いの父親が亡くなっても、なんとなく続いている約束でもあった。

男女ではあるが、子供の頃は性差は気にならず。身体中に傷を作って鍛錬を重ねる日々であった。

初めて意識したのは…意識、というより…異性として明確に認識したのは、十七の時。

色に惑われさる前に習得しろという村の方針で年頃になると性交渉を覚えることになっていた。

通常であれば、経験豊富な者から習うのがならわしではあったが…


「……エミも、ですか」

「ならわしだからな」


エミも、性交渉をする。

私以外の、男と?

胸のうちがモヤモヤとして…気付けば口を開いていた。


「エミの相手は私がします」

「えっ…いや、だが、昆奈門も初めてだろう?」

「知識だけは付けられましたし、あとはお互いで練習すればいいでしょう。それに、」


私は自分の気持ちを落ち着けるように一呼吸置いてから、腹に力を込めて口を開く。


「私とエミは許嫁です」

「それは、そうだが…」


言いよどむこの男…山本陣内は、私の父に命を救われた恩があり、その息子である私にも基本的に甘い。

立場上は山本さんの方が上だが、そこまで無理難題は言わない私に対して折れることが多いことも、承知の上での提案だった。

案の定、山本さんはため息をついてから了承した。


「…わかった。では、エミにもそのように伝えておく」

「ありがとうございます」


エミの相手が私に決まったことに満足し、胸を巣食うモヤモヤもすっかりなくなったことで、なぜそんな気持ちになったのか…その時はとりとめて考えなかった。

実技を学ぶにあたり、場所は雑渡家の屋敷になった。

屋敷と言っても大きなものではない。

父が亡くなって数年してから、後を追うように母も亡くなり…そうなると、一人で住むには大き過ぎる屋敷は取り壊そうかと思っていたのだが、エミに「手入れはアタシも手伝うから、残しておこうよ」と言われ、たまに換気や掃除をしに来ている。

そう言うエミの生家は、今はもうない。

だからこそ、次に思い出の多いこの家を残したいと思うエミの気持ちを察するに、取り壊すのはやめにした。

この前の休日に干したからか、思ったよりもカビ臭くない布団を敷いて、その上に腰を下ろした。

エミを見上げて、私の隣をぽんぽんと叩く。


「座ったらどうだ」

「あー…うん、そーだね。失礼しまーす」


いつもと違いぎこちない様子のエミに珍しく緊張しているのかと思いつつ、私も柄になく緊張しているのは自覚していた。

布団の上に座って、互いの顔を見つめあって…しばし沈黙。

それから、思わず吹き出した。


「くくくっ…らしくないね」

「も〜〜ほんとだよ〜〜。とりあえず実技練習ってとらえでいいんだよね?」

「そうだな。お互い初めてだから確認しながらやろう」

「だねー。姐さん方に言われて練習?訓練?は、してきたけど…入らなかったらまた次回ってことで!」

「…お前、ほんとに思ったことは何でも口にするね…まぁ分かりやすくていいけど…」

「とりあえずやってみよう!ってことで。じゃ、始めますか!」

「さっきまでの緊張はどこへやらだね…くくっ、始めようか」


さて、どうするかなとエミの様子を伺っていたら、ぐっと顔を近付けてきて目を見開く。

にんまりと笑みを浮かべたエミが、そのままちゅっと唇をかすめ取ってきた。

一瞬だけ触れた柔らかな感触に…もっと確かめさせろとばかりに唇を追いかけ、柔らかく押し当てる。

何度も啄むように唇を重ねて…それから、誘われるように開かれた唇の隙間から舌を捩じ込んだ。

人の咥内はこんなに熱いのかと驚きつつ、舌を絡めて熱を分け合う。

どうすれば気持ちがいいのかとエミの反応を確認して…


「んっ…ふぅ…んぅ…」


脳を揺さぶるような、甘い、声。

そう感じとった瞬間に、ゾクゾクと腰が震えて…気付けば、エミの体をガッチリと抱き込んで咥内を貪っていた。

何年後か経って思い返しても、この時の私はエミの色香に当てられていたというしかない。己の欲に抗えずに好き放題した自覚がある。

舌を絡めて吸い取って、なるほど、それで口吸いか…なんてうっすら思って、そのままエミの体を布団に押し倒して、上から体重をかけてさらに口吸いを続ける。

気持ちいい。とにかく気持ちがよくて…そして、いつもは平気で私を投げ飛ばす腕が、すがる様に背中に回されるのも堪らなかった。

ようやく満足して唇を離した頃には、互いの口の周りは唾液でまみれていた。

手の甲で口元を拭い…肩で息をして体を投げ出しているエミを見下ろす。

酸欠だったからか、潤んだ瞳が甘く溶けている様にも見えて…思わずごくりと生唾を飲み込む。


「はぁっ…はぁっ…いきなり、すぎない?」

「……すまない。気持ちよくて…つい…」

「はぁっ…はぁっ……はぁ〜…まぁ、気持ちよくは、あったかな…」

「エミも?」

「……ん」


照れたように視線をそらせ、口元を手の甲でぬぐうエミの姿に目がくらみそうになる。

い、色香が……色香がすごい……

すでに主張している股間は痛いくらいだが、落ち着け、落ち着けと深く息を吐き…それから、エミへ視線を向ける。

……脱がせて、いい……よな?

誰に確認するでもなく内心独りごち、エミの着物のあわせに親指をかける。

ぴく、とエミの肩が揺れ…それから、チラリと視線がこちらを向く。


「…あんまり、見ないで……恥ずかしい……」


血がのぼるとは、こうゆうことを言うのかと。

自分の顔が熱くて堪らないし、目の前の情報から思考が掻き乱されて、どうにかなってしまいそうだ。

長く息を吐いて…そうして、名前を呼んだ。


「エミ」

「な、なに?」

「見ないのは無理だ。練習にならない」

「そっ…それもそうか…」

「それから、エミもちゃんと見て」

「え…」

「恥ずかしがってちゃ練習にならないだろ」

「うっ…確かに…」


エミは「ふーっ」と息を吐いてから覚悟を決めたのか私に視線を合わせる。

そして私の顔を見てポカンとした。


「……昆奈門、真っ赤じゃん…」

「分かってるよ。私だって恥じらいがないわけじゃないんだ」

「……ぷはっ!あははははっ!くくくっ…はぁ〜…なんか、安心した。そーだよね、お互い初めてだしね。裸体見ても動じないくらい見慣れないとね」

「三禁の一つだからね、色は。…少しは落ち着いた?」


エミに言いつつ、自分にも言えることだった。話しているうちに少しは治ったようだ。

私の言葉にエミは頷くと、腰の帯紐を解き始めた。

その姿に内心ギョッとしつつ、平静さを装って尋ねる。


「自分で脱ぐか?」

「うん、そーする。なんか、そっちはまた今度練習にしよ。挿入までに恥じらいがもたないわ…」

「なら、裸になるところから始めるか」


言うなり、お互い衣服を脱ぎ、下着も脱ぎ…何もまとわぬ姿になる。

幼い頃の裸体なら見たことはあるが、男女の差が明確になってから見るのは、もちろん初めてだった。

所々に残る傷痕は、エミの努力の証であり…それすらも、綺麗だと思った。

背中に届くまで長くなった髪も、日焼けをしていない白い肌の場所も…思わず手を伸ばそうとして、手を握りしめる。危ない、危うく本能のままに動くと頃だった。これでは練習にならない。

エミはというと、顔を赤くさせたまま、それでも男の裸体に興味はあるのかジーッと観察される。

その視線が腹筋から股間へ移ったところで、分かりやすく肩を跳ねらせたので思わず笑ってしまった。


「くっくっくっ…エミは相変わらず素直だね」

「うわ、笑うとソレも揺れるんだ…おもしろ……てか凶悪すぎない?それ入るの?」

「入る、みたいだね。入れたことはないから分からないけど」

「それもそうか…」

「エミのも見せて」

「は…」

「私のばかり見て、不公平だろう?それとももっとちゃんと見るかい?」

「えっ!?」


顔をさらに赤くさせつつ、視線は私の肉棒を見ているのだから、興味深々といったところか。

エミは恐る恐る近づいて来て…私はあぐらを片方だけ解いて、エミの様子を見る。

手を伸ばしたエミが触れる直前で手を止め、私を伺うように見上げてきた。


「…触れてもいい、もの?」

「どうぞ?」

「…失礼しまーす」


エミの人差し指が、緩く勃ち上がった肉棒の竿に触れる。

自分とは違う、少し冷たい体温に思わず腹に力を入れた。

観察に入ったエミは私の反応は気にせず片手で握り込んだり、玉を持ち上げてみたり、亀頭に触れてみたりと自由に触っている。


「へぇ〜…なんか、どんどん硬くなってきてる…?うわ、なんか出てきた!ぬるぬるする…円滑油的な…?」

「…そろそろ交代しても?」

「え?…うわっ!」


焦ったい触り方に焦らされているのかと思ったが、単純に知識がないだけだと思い直し、エミの体を布団に押し倒す。

有無を言わさず膝を割って恥部をさらけ出させれば、目を白黒させていたエミもギョッとして手で隠そうとするので、その手を掴んで阻止する。

てらてらと濡れそぼるそこに、知らず生唾を飲み込み…それから、同じように尋ねた。


「触れても?」

「うう…はい、どうぞ……」


散々好き勝手に触ってた自覚があるのか、あっさり折れたエミに、一番興味を惹かれた膣口の分泌液を指で掬った。


「んっ!」

「…へぇ、結構ぬるぬるなんだね…」

「あっ…ちょ、まっ…んんっ!」


ぷっくりと勃起している陰核に愛液を塗れば、びくっと腰を振るわせ甘い声を我慢しようとする。

エミの甘い声は、理性的でいられなくなると分かっているのに、聞きたくなるんだから不思議だ。

どこを触れば女体は気持ちよさを覚えるのか、習った場所を確かめるように陰核に愛液を塗り付けながら刺激すれば、エミは声を抑えられないとばかりに艶やかな声を上げる。


「あぁあんっ!あっ…それぇっ…んぁあっ!だめぇ、気持ちいいっ…あっあっ…!」


陰核を刺激しつつ、膣口へ指を入れる。

熱い肉壁を割ってエミの気持ちいい場所を探す。

性交渉の実技を学ぶに辺り、エミ自身も練習したと言っていたが…中の感覚は初め鈍いようで、かなり自分で練習をしなければ気持ちよくなれないと聞くが…

とめどなく溢れてくる愛液が水音を立てる中、上側のざらりとした部分を刺激した時、明らかにエミの反応が違った。


「あぁあんっ!?あっそこっ…!そこ気持ちいいとこぉっ…!あっ…あっ…あぁあああっ…!」


ビクビクッと体を震わせて達したエミに…私は容赦なく指を増やした。


「んぁっ…!?いま、たっしたばっか…あっ…あぁんっ…!」

「もう少し解さないと入らないから」

「あぁんっ…それ、早く入れたいだけっ…あんっ…!」

「そうだよ。早く私のことも気持ちよくして。エミだけずるいだろう?」

「あんっ…はぁっ…それは、そうっ…ん、だけどぉ…んあっ…」


三本目の指も難なく飲み込まれ…これは相当準備して来たんだな、と、エミなりの本気を感じて感心した。

女側の方が負担が大きい。

しっかりと準備しておかねば痛みを伴うのは女の方だ。

準備にあたっては男も十分に協力しなければ性交渉はうまくいかない。

と、頭では分かっているが…それよりも早くこの柔らかい場所へ入れてみたいという欲求の方が勝りそうだった。

十分に解れたか、というところで…散々我慢させられてギンギンになっている肉棒を、ようやく膣口へ充てがう。

ぐちゅ、と入り口にぴたりとくっつけ…ゆっくり押し入っていく。

包み込まれる肉壁が気持ちよく、理性を捨てて腰を進めそうになるのを必死に耐える。

ぽたぽたと汗が滴り落ちて、エミの肌に落ちる。

エミの肌にも玉のような汗が浮かんでいて…焦るな、焦るなと自分に言い聞かせながら腰を進める。

ようやく肌と肌がぶつかったところで…私は長いため息を吐いた。


「フーーー…入ったぞ」

「はぁ…はぁ…ん、お腹、熱い…圧迫感がすごい…昆奈門のおっきいね……んっ!…まだ、おっきくなるの…?」

「エミ……これでも耐えてるんだ。あまり煽るようなことは言わないでくれ……」

「はぁ…はぁ…昆奈門は、気持ちいい?」

「くっ…ああ、気持ちいい…溶かされそうだ…」


気持ち良すぎる。

性交渉がこんなに気持ちがいいものなんで…これは、色欲に溺れる男の気持ちが分かる。

これは確かに、己を律することができなければ欲に任せて己を見失いそうだ…

額に浮かぶ汗を乱暴に拭っていたら、エミに頬を触れられて、固まる。

かぐわしいほどの色香を振りまくエミに…その、普段とはあまりにも違う、とろりと溶けた瞳や、熱で蒸気した頬に…誘われるように開かれた塗れた唇に…視線が離せないままでいると、エミの脚が私の腰を抱え込むように、ぐっと回される。


「昆奈門…練習、でしょ?」

「エミ…」

「練習なら、失敗しても、しょうがない、でしょ?」


誘われるようにエミに顔を寄せ…もう少しで口吸いができる距離で、頬に添えられていた手が、唇に触れる。

くらくらとする色香に…エミは、いやらしく塗れた唇を舐め上げ…そして、瞳を細めて私を誘う。


「まずは、溺れるところまで溺れてみようよ、昆奈門。夜はまだ、深いでしょ?…いっぱい、練習しよ?」

「っ……チッ…覚悟しとけッ」

「んぅっ!」


吐き捨てるように乱暴にそう言って、それから欲望のままに口吸いをし、腰を穿った。

激しい動きに、エミがすがるように背中に腕を回してくるのも堪らず、あっという間に達する。

だが、すぐに硬さを取り戻した肉棒によってエミの気持ちいい場所を重点的に責め立てれば、エミは白い喉を晒して達していた。

知識として詰め込まれたあらゆる対位を試し、同時に陰核や乳首を責め立てる。

時間を忘れて情事に耽り……お互い体力だけはあったため、敷布団が互いの色んな体液でぐちゃぐちゃになっても止まらなかった。

途中、水分補給をするために体を起こした時は、エミに引き留められた。


「やぁ…もっと…」

「水を取りに行くだけだ。くんでおいただろう?」

「…アタシも行く」

「立てるか?」


ぷるぷると震えていたが歩けそうだったので腰を支えつつ竹水筒を取りに行く。

もっと近くに置いておけばよかったと思いつつ、もたれかかってくるエミの体温は心地よい。

竹水筒の栓を抜き、エミに手渡そうとして…先に水を含む。

恨めしい目を感じつつ、そのまま水を分け与えるために口を塞げば、面白いくらい驚きに見開かれる瞳に、ニヤリと笑い、そのまま水を流し込んだ。

少しエミの口からこぼれてしまい、「冷たい…」と文句を言っていたが、「もっと」とねだられたので同じように分け与える。

自分で飲むよりは楽なのか?と考えつつ、まるで雛鳥だな、とも考えて少し笑う。


「ん…ありがと。もう大丈夫」

「そう」


残りを飲んで、布団に戻り…チラリとエミに視線を向ける。


「どうする?する?」

「んー…取り敢えず性欲としては満足したかな…体拭く前に、もうちょっと練習かな」

「ん?」

「昆奈門はまだ勃つ?ちょっと貸して欲しいんだけど」

「…ちなみに、入れるのは?」

「うーん。さすがにちょっとひりつくから今日はおしまいだな。結構ヤったもんな〜。昆奈門は満足できた?」

「……もう少し、かな」

「りょーかい。じゃあ手と口でしてあげるから、どんな感じか教えて」

「……探究心がすごいね」

「アタシは練習できるし、昆奈門は気持ちいい思いできるし、一石二鳥じゃない?」

「それは…そう、だね」


切り替えが早すぎるエミに呆気に取られつつ、初めてとは思えない技術を発揮されたので、しっかり気持ちよくしてもらった。

片付けや洗濯もちゃっちゃと済ませて寝る用の布団で横になり…ふと、思ったことをエミに聞いてみた。


「エミ、一ついいか?」

「んー?」

「私とエミの関係性って、何かな」


聞いておきながら、何て答えが欲しいんだと自分に問い返す。

自分の答えを出すより先に、エミがサラッとこう言った。


「そりゃ、許嫁でしょ?」

「…そうか」

「ん?他になんかある?幼馴染?好敵手?」

「いや、許嫁だね」

「だよねー。おやすみ〜」

「…おやすみ」


それでいいのか?と自問自答しつつ、今はそれでいいかと納得して眠りについた。

エミとの実技練習は、それからも幾度となく行い…時には練習ではなく、ただお互いの欲を発散するために体を重ねることもあった。

「許嫁」という名目は中々便利で、戦でくすぶった欲を発散できるのは都合が良かった。

それを山本さんに漏らしたら、凄く微妙な顔で「昆奈門がそれでいいなら、いいが…」と言われた。


「どうゆう意味ですか」

「いや…私から言うのもなぁ…だがはっきり言わないとお互い分からないまま終わりそうだしなぁ…」

「山本さん」

「……はぁ〜…じゃあ言うが…昆奈門は、エミに対する気持ちは分かっているのか?」

「エミに対する気持ち…?許嫁でしょう」

「それに付随する気持ちを、ちゃんと考えた方が良いと言う話だ」

「付随する気持ち…考える必要がありますか?」

「そうだなぁ…今はないかもしれないが、いずれは考えた方がいい。後悔しないためにな」

「後悔?」


今はそれ以上は言う気がないとばかりに話は締められ、山本さんは任務の話を始めた。

私がこれについて真剣に考えるのは、死を意識した…随分経ってのことになる。


―――――――――

まさかのどっちも自覚しないまま終わった…大丈夫なのかお前ら!?



 


  
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