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あたしは、まるで、水のようだと思う。気付けば、そこに居て、必要とされ、けれど、他の何かがあれば、必要とされないような。あたしは、まさに、水だった。
だったら、氷になってしまいたかった。必要とされなくても、何も感じないように。嫌われても、何も感じないように。愛されても、何も感じないように。ただただ、在る、というだけの人間になりたかった。
そうすれば、傷付かずにいられる。
そうすれば、傷付けずにいられる。
人間なんてものは、独りで居ればいいのだ。そうすれば、誰も傷付かないし、誰も傷付けないで居られるのだから。
***
「また、浮気しちゃった」
僕の彼女は、酷い浮気性だ。僕が少し構ってやれないと、他の男と寝た、といって連絡してくる。
「また?」
「うん」
「なんで?」
「なんでだろう」
困ったように、小首を傾げて見せて、少し、腹が立った。
「自分のことだろうがよ」
「人間、自分のことが、一番、良くわからないように出来てるんだよ?」
知らなかった?と問い掛けた彼女は、なんだか、泣きそうだった。泣きたいのは、僕の方だ。
「ねぇ、もう、別れよう?」
言った彼女は、泣き出した。だから、泣きたいのは僕だって。
「寂しかった?」
「…うん」
「僕だけじゃ、足りない?」
「本当は、君だけでいい」
「じゃあ、もう少し、このままで居よう?」
「また、浮気しちゃう、かも…」
「それは、やだな」
「がんばる」
僕は、彼女を抱き締めた。
***
あたしは、君にとって、必要不可欠には、なりえない。所詮、ただの水だ。だったら、氷に、なりたかった。
君の前では、泣きたくなかった。結局、君だけを、愛していることなんか、知られたくなかった。
あたしの浮気が、君を、傷付けているということは、解っていたから、傷付ける位なら、離れてしまいたかった。
さよなら、と言って欲しかった。悪いのは、全部、あたしだと、わかっていたから。
それを、言い出せないあたしは、やっぱり、氷にはなれない、ただの、水だった。
end
話題:SS