月夜、蝶は舞う
ショートストーリー

「本気になったら、そこで、打ち止めよね」

彼女は笑った。嘲笑った。酔いに任せてか、あるいは、やけっぱちか、ねぇ、と彼女は言う。

「あたしのこと、抱かない?」
「抱いてほしいわけ?」
「うん。今物凄く、君が欲しい」
「俺じゃないだろ?」
「ん?」
「俺のモノが、だろ?」
「間違っちゃいないかな」

彼女は、笑う。その笑顔は、薄暗い夜道では、よく見えなかった。本当は、笑っていなかったかもしれない。

「でも、ゴムは付けてね」

冗談めかして笑う。嘲笑う。俺が断れないのを知っていて、ねぇ、と彼女は言う。

「気持ち良いこと、しようよ」

***

「もっと。もっと痛くして」
「こう?」
「んぁ、そう」

月明かりだけで、彼女の白い肌が、ぼんやりと、浮かび上がった。まるで、月だ。

「一番奥まで、キてる」
「どう?」
「苦しい」
「それだけ?」
「キモチイイ」

白い身体が跳ねる。電流を流したように。否、脳内はきっと、もう、訳のわからない、電流(サイン)が、溢れてるはずだった。

「あぁ、だめ、やめ」
「やめる?」
「やめないで」

最後、彼女は、笑って意識を飛ばした。頬を撫でたりはしない。名前も知らない彼女に、そんなこと、する義理はないのだから。

代わりに、財布から札を二枚取り出して、ベッドサイドに置いた。俺は、何がしたくて、彼女を、此処に連れてきたんだろうか。

何、悪いことではないはずだ。彼女も、それを、望んでいたんだから。



end
話題:SS


13/05/27  
読了  


-エムブロ-