明けない夜はないよ、と言ったのは誰だったんだろうか。
《永久の夜》
論理的に言えば、確かに、明けない夜は、ないのだろう。
けれど、そうじゃない。違うんだ。
あたしが生きてる世界に、朝日は昇らない。救いなんてない。掬いあげてくれる人なんていない。みんな、順番に足を引っ張って、落ちていくだけだ。助けてといった声も、くぐもっていく。いずれ、誰もが、諦める。そういう風に、出来ている。
「おはよう」
「ああ。もう、昼過ぎだけどな」
「何よ、どうせあんたも、今起きたんでしょう?」
「違いない」
諦めきったあたしたちは、まるで、恋人同士のようにキスをした。
堕ちてしまったあたしたちには、孤独は重たすぎた。だから、仮初めで良い、誰かが必要だった。
ひとりきりの夜は永いから。
そうして、キスが深くなる。そうすると、思考回路が分断されて、なにも考えられなくなる。考えたくなんかないから、ちょうどいい。
ただ、考えないためだけに、お互いの身体を貪る。耳許で、熱っぽい吐息が聞こえた。呼応するように、あたしの口から、喘ぎ声が漏れる。
「ねぇ、もう、ちょうだい」
「コンドームは?」
「どっちでもいいから、ね、お願い、はやく」
彼は律儀にコンドームを付けている。定まらない視界にその姿が写りこんで、あたしは、ドロリと笑った。
「いれるよ」
「ぅん」
足元から、快感が這い上がってくる。条件反射で、その快感から身を捩ると、彼は、ニヤリとあたしの肩を押さえ付けた。
「逃げんなよ」
「ゃ、めっ。ぁ、動いちゃだめ」
「やだね」
押さえ付けながら、まるで、本当に、食い散らかすように、彼はあたしの首に舌を這わせた。ヌラリと、それすらも、快感で。
「んぁっ」
「もっと啼けよ」
「やぁ、ん。はぁっ」
一際大きな波が、あたしをさらう。訴えると、彼はまた、イヤらしく笑った。それから、彼は、動きを止める。あたしは、腰をくねらせて、せがむ。
「ゃ、お願い、イカせて」
「お前本当にエロいな」
そんなやり取りを二、三繰り返す。
「もぉ、イカせてっ」
「ははは、イケよ、変態」
あたしは、泣きながら、快感に身を委ねた。そして、ホワイトアウト。
***
「いま、なんじ?」
「6時」
「あさ?」
「夕方 」
「仕事間に合いそうだから、仕事いく」
「おう」
寝ぼけた頭で、シャワーを浴びて、着替えて化粧をした。
仕事なんて、してても、してなくても、ほとんど、一緒なのだけれど。
お金をもらってセックスするだけ。たぶん、世界で一番、暗い仕事だ。
だから、やっぱり、あたしの生きてる世界に、朝日は昇らなくて、夜は、明けないのだろう。
救いなんて、もちろんない。
掬いあげてくれる人なんていない。
みんな、蔑むだけだ。必要悪、だなんて言って。
だから順番に足を引っ張って、落ちていく。堕ちていく。
もう、戻れないんだな、と自覚してしまったことだけを、あたしは後悔している。
end
話題:SS
13/05/11