「あたしのこと、すき？」
もはや、それは、口癖だった。本当に聞きたいことを聞けなくて、だから、代わりだった。
『あたしのこと、必要？』
本当は、そういう風に、聞きたかった。必要とされてるなら、どんなに、あたしに構わなくてもそれでいい。
だったら、毎日でも、聞けばよかったのかな。
あたしには、わからない。
わからないから、こうなってしまった。
「あたしのこと、すき？」
「好きじゃなかったら、一緒にいないだろ？」
「あはは、そう、だよ、ねー」
君は、その台詞を、パソコンを眺めながら言った。あたしは、頭のなかで何かが壊れる音を聞いた。そこから、あたしは、なにも覚えていない。
「君は、あたしなんか、居なくても、大丈夫なんだろーねぇ」
「あー、まあ？」
「そかそか、そうだよね。パソコンしてれば、充分、暇潰しにもなるし、あたしなんか、居なくてもぜーんぜん、大丈夫なんだもんね」
「どうした？」
「あー、んーん、別に。何でもないよ。君が楽しそうで、何よりだなって、思ってさ」
「嘘だろ」
「なんでー？」
「変なことばっかり言うからだろ」
「変なこと、言ってる？」
「うん」
「じゃあ、変なことついでに聞くけどさ、あたしのこと、必要？」
「ん、まあ？」
「そっか、ならいいや」
あたしは、きっと、最後まで、笑ってたと思う。大事なところで、上手に嘘を吐けるのがあたしだから。
必要だと、明確に、言って欲しかった。好きだと、言葉に出して言って欲しかった。あたしのことを、みて、そういう風に、言って欲しかった。
最後まで、後悔ばっかりだったな、って思う。
帰宅後、電話を掛けた。電話越しに聞く、君の声は、眠たそうで、めんどくさそうで、ああやっぱりな、なんて思うだけだった。
「やほー」
『なに、こんな時間に』
「ちょっと、聞きたいことがあってさ」
『眠いから手短にな』
「わかってるって、ごめんね」
『や、いいけど。で、何？』
ああ、ほら、そうやって。あたしのこと、面倒だな、って思ったでしょ、今。でも、電話だから、もっと、面倒なこと、言ってやる。
「あたしといる意味ある？」
『は？』
「あたしのこと好き？」
『昼間もいったけど、好きじゃなかったら、付き合わないだろ』
「好かれてる、って思えない」
『どうして欲しいんだよ』
「…わかんない」
わかんない、のよ。君からの、好きって気持ちが、少しでも、伝わってくれば、こんな風に、ならずに、済んだのに。
好かれたいだけ、必要とされたいだけ、あわよくば、愛されたかっただけ。君の全部が、欲しかっただけ。
『なんだよ、ってか、今どこにいんの？ すっごい煩いよ、後ろ』
「あー、線路のそばだからかな」
『なにしてんの？』
「散歩」
『ふぅん』
「あのね、あたしのこと、必要？いらないなら、好きじゃないなら、そう言って欲しい。一緒にいても、あたしのこと、見てくれないなら、一緒にいる意味ないよね。邪魔なら、そう言って？邪魔じゃないように、いなくなるから。もう、好きだなんて、言わないし、聞いたりしないから」
『今のお前は、面倒臭いよ。夜中に電話かけてきて、俺、明日も仕事なのにさ』
「うん、そうだよね、ごめん。じゃあ、ばいばい」
＊＊＊
あたしは、電話をきった。
カランコロン、と踏み切りが鳴る。
遮断機が降ろされる。あたしの後ろに。
電車が通る。
あたしは、そこへ、飛び込もうとした。
「馬鹿！！！」
盛大に後ろ向きに転がった。腕を擦りむいていた。痛い。というより。
「だ、れ？」
「俺だよ、俺」
「ぁ、なにしてんの？」
「俺の台詞だ！」
「怒んないでよ」
「怒るわ、馬鹿！！」
「なんでよ、要らないんでしょ、あたしなんて。見向きもしないじゃない。触れてもくれないじゃない。要らないでしょあたしなんて。あたしなんか、いない方が楽でしょ。あたしといる意味ないじゃん。あたしといる理由ないじゃん。嫌いなら要らないなら、そう言ってよ消えるから、いなくなるから」
あたしは、泣いていた。なんでだろう、と思う。
「俺のこと、勝手に決めんなよ。好きだ、って言ってるだろ」
「覚えてない。最後に好きっていってくれたのいつよ。愛しい、なんて言ってたの、ほんの、最初だけだったもん。付き合ってる時間が長くなればなるほど、あたしのこと、どうでもよさそうにしてきたじゃん。どうせもう、嫌いなんでしょ？面倒臭くなったんでしょ？嫌いになったんなら、そういえばいいじゃん。要らないなら、そう言ってよ！！！」
そうしたら、死ねるから。居なくなれるから。
「俺のこと勝手に決めんな！！！」
怒鳴り声と同時に抱き締められて、あたしは、涙が止まらなかった。
気付くと、彼の部屋だった。キッチンに冷めた朝食と、『温めて食えよ』っていう、メモ書きが置いてあって、あたしは、また、泣いた。
not bad ending...?
and
next is bad ending
話題:SS
13/05/09
