雪と同棲し始めて、もうすぐ、一年経つけど、こんなに、驚かされたのは、初めてだった。
《私と君と獣耳子‐けもみみこ‐》
「ただいまー」
雪が帰ってきた。私は夕飯を作っていた手を止めて、玄関に迎えにいく。
「おかえ………」
雪の隣には、雪の半分ほどの大きさのひどく汚れた子供がいた。それだけなら、たぶん、ここまで、驚かなかった。私は今、驚きすぎて、声がでない。
その子には、本来、耳があるべきところに耳はなくて、代わりに、頭の上の方に、ピョコンと、獣の耳が生えていた。
「拾った。寒そうにしてたから。風呂にも入れてやった方が良さそうだし、食うもん、あるよな?」
「ここあったかいにー。ゆき、ありがとだに」
その子供は、ほにゃん、と笑った。あんまりに、無垢な笑顔だった。
私は、もう、仕方ない、と、腹をくくった。いつだって、雪は勝手に決めてしまう人だから。
「先に、お風呂ね。雪がいれてあげる?」
「こいつ女の子だろ。お前、いれてやってくれる?」
「わかった。じゃあ、夕飯、作っといてね」
「わかったよ」
私は、おいで、と、その子に両手を差し出した。すると、その子は、すすす、と雪の後ろに隠れてしまった。
「大丈夫。椿は怖くないよ」
雪が言いながら、その子の背中を押した。私は、精一杯、優しい笑顔を作って、その子を抱き上げた。
軽い。
異常なまでの軽さだと感じた。
お風呂場に連れていくと、その子は、身体を強張らせた。
「みず?」
「嫌いかな? でも、綺麗にしたら、気持ち良くなるから、大丈夫」
シャワーを暖かくして、まずは、足を洗った。お湯を掛けた瞬間、ビクッとなって、その子は私に、しがみついてきた。大丈夫、大丈夫。私は、優しく優しく、言いながら、順番に身体を流していった。
最後に、頭を洗おうとしたのだけれど、どうしても、嫌だと言って、酷く悲しそうな顔をしたその子に、私は言った。
「私もするから、一緒にしよ?」
「いっしょ?」
「そう。おんなじことしよっか!」
「んー、んー、んー…、うんっ」
その子はまた、ほにゃんと笑った。
でも、やっぱり、少し嫌だったようで、その子は難しい顔をしていた。けれど、さっぱりしてしまうと、その嫌そうな顔も忘れて、ほにゃんと、笑っている。
その子には、私のTシャツを着せてあげた。なるほど、ワンピースのようになっている。
「おまたせー」
「おたませー」
「違うよ、お、ま、た、せ」
「お、ま、せ、た?」
私はそこで、クスリと笑ってしまった。雪も、それを聞いて、にこりとする。
「その内覚えようね」
「わかったにー!」
リビングには、椅子が二つしかないから、私はその子を膝の上に乗せて、三人で、食卓を囲んだ。
「お風呂、気持ちよかった?」
「おふろね、つばきと、いっしょしたんだに!」
「そうね。一緒に頭、洗ったんだもんね」
私が言うと、その子はまた、ほにゃんと笑った。
「そっか、よかったね」
「こんど、ゆきと、いっしょしたいに!」
雪はにこにこと笑っていた。私も、つられて笑顔になっていた。
これが、私と彼と獣の耳の生えた女の子との、生活の始まり。
end...?
話題:SS
12/12/20