「     」
ショートストーリー

「相手の考えとか気持ちとか、わかったら便利だと思わない?」

彼女は、影のある顔で笑った。

「僕は勘弁してほしいかな」

僕は苦笑いで応える。

「何で?」

彼女は、寂しそうに、言う。

「知られたくないことも、考えてたりするんだよ」

僕は苦笑いしか出来ない。

例えば、彼女と手を繋ぎたいとか、彼女を抱き締めたいとか、彼女にキスをしたいとか、それ以上も思っていることなんか、知られたくない。

「例えば、私のこと、好きじゃなくなったり…?」
「そんなわけない!」

彼女は、瞳に涙を浮かべている。

「だって、好きって言ってくれないし、私に触れてくれないし、もう、嫌いになったんでしょ…?」

僕は、意を決して、彼女を抱き締めた。

「好きって言わないのは、伝わってるかなって、思ったんだ。あと、やっぱり、言うの恥ずかしいし。触れないのは……自分をセーブできる気がしないんだ。君のこと襲いそうで、嫌なんだよ」

ごめん。僕は言った。彼女は、腕の中で、小さく首を横に振った。

「私こそ、ごめん」

腕にすっぽりと収まる彼女に、僕は、小さく囁いた。

「     」


end
話題:SS


12/08/03  
読了  


-エムブロ-