阿修羅ゲーム
ショートストーリー

「汝、我に何を望む?」
「宵の神よ、私の望みはーーー」

これは神に踊らされた、愚か者の物語である。

《阿修羅ゲーム》

「お前は何を望んで、その力を獲た?」

異様に背の高い男が、私を見下ろして言う。私は、静かに言い放つ。

「君には、教えないさ」

すると男。

「なんにせよ、お前には、死あるのみだ」
「死ぬのは君だよ。私だって、死を受け入れられるほどには、強く望んでいるんだから」

私は、ゆっくりと中段に構えた。

「馬鹿馬鹿しい。早々に、死ぬがいい!」

言葉と同時に、男の足が飛んでくる。それをいなして、間を開けた。

「なら君は、何故闘うんだい?」

隙を伺うように、問い掛けた。男も構えを崩さないまま、答える。同時に、腕を振り回した。

「言う訳、なかろう!!!」

男は言いながら思う。

俺のような無骨な男が、たった一人の肉親、妹の為に闘っている、と言ったら、この華奢な娘は、笑うのだろうか。あるいは、早く妹の傍に行け、とでも、言うのだろうか。

わからない、が、しかし。何故か目の前の華奢な娘が、妹の様に見えた。

「だろう、ねっ!」

私は、言うと同時に、足払いを掛けた。畳み掛けるように殴り、腕を掴み放り投げる。

華奢な私には、本来、出来るはずのない動き。

それが出来るのも、これが、宵の神の、暇潰しのゲームだからだ。

勝者の望みは叶えられ、
敗者には、死が待っている。

それでも、私は、望まずには、居られなかった。

失ってしまった、あの人を、取り戻したい。それが、私の望み。

「言い残したことは、ない?」

男の動きを完全に封じた状態で、問い掛ける。

「お前は、妹に似ている。お前の望みは、なんだ?」

死に行く男の、その顔は、奇妙に穏やかだった。

「私の望みは、愛した人を、あの神から取り戻すこと」
「…そうか。もし、お前が生き残ったら、妹に伝えてくれないか。愛してる、と」
「解ったよ」

私は言いながら、首の骨を、折り曲げた。きっと、楽に死ねたはずだ。

あと何人、殺せば、あの人は、戻ってくるんだろうか。

私が壊れてしまう前に、あの人を、取り戻せることを、祈る神すら、私には居ないのだと思うと、少しだけ、悲しくなった。



end
話題:SS


12/07/06  
読了  


-エムブロ-