釣った魚
ショートストーリー

「たった一人の人を、永遠に愛することって、できると思う?」

彼女の問いかけは、ただの好奇心から来るものだろうか、それとも…。僕には解らなかった。

《釣った魚》

「永遠、って言うのは、やっぱり、なかなか、難しいとは思うけど、僕は、僕なりに、この人だって決めた人を、一生、愛せたら良いなって思うよ」

彼女はクスクスと笑った。やはり、つかめない。相変わらず、子悪魔的な所のある人だと思う。

「あたしはね、そういうの、あると思うの。だって、実際、この人以上に愛せる人いない、って、思ったことは、何度かあったわ」

彼女は、彼女自身の言葉の矛盾に気付いているのだろうか。僕は、彼女の言葉の真意も掴めないままに、彼女の言葉に、突っ込みをいれた。

「それは、この人だって、思った人以上に、愛してしまった人が出来たの?」

彼女は、そこで初めて、不満そうな顔をした。

「そんなわけないわよ。失礼ね」
「ああ、ごめんな。そんなに、怒らないで?」
「まあ、いいわ」

彼女はそこで、軽く肩をすくめた。

「つまりね。男が悪いのよ。

あたしとしては、貴方しか愛さないわ、って思って、そういう風に振る舞うわけ。

他の男の誘いはもちろん断って、友達と遊ぶ予定より、愛した人との予定を優先したり、愛した人の好きな料理を作ったり。健気よね。ふふ」

彼女はそこで、同意を求めるように、小首を傾げる。なるほど、愛だろう、と思う。だから、僕は頷いた。彼女は、満足げに続ける。

「そうすると、男は安心するわけ。こいつは俺に首ったけだな、って。そしておろかな男は、忙しさにかまけて、あたしに構わなくなるのよ。

釣った魚に餌は遣らない、って奴よね」

彼女の言いたいことが、すっかりわかってしまい、僕は、自分の愚かさが身にしみた。

「えーっと、その、つまり。……ごめんなさい。ここ最近、デート出来てなかったもんね」

彼女は、ニヤニヤと笑う。僕が何を考えているか、大体わかっているときの、彼女の顔だった。

「明日は、リサの好きなコトしよう? で、何かプレゼントさせて?」
「プレゼント? なんで?」

僕は彼女がわざとらしく、知らん振りをしたのだと解ったから、最大限にキザに言った。

「明日は、付き合って8ヶ月目の記念日だからね」
「ふふ、良くできました」

彼女は、僕の一番好きな、満面の笑みだった。

翌日のデートでは、一日中、遊び回って、途中、アクセサリーを見て、お揃いのピアスを買った。今、隣で眠る彼女の耳と、僕の耳にも、それは、キラキラと輝いている。

眠る直前の、彼女から聞いたところによると、記念日を忘れていたら、別れていたかもしれない、と仰っていた。なんとも、恐ろしいお姫サマである。僕は、愛しい彼女のために、もう少しだけ、時間を作ろうと決意したのだった。



end
話題:SS


12/06/27  
読了  


-エムブロ-