「あたしのタイヤキ食べたのだれだぁー!!!」
マンションの一室に響いたのは、リンの声だった。
「知らないよー?」
そう答えたのは、トモヤ。この部屋には二人しかいない。
「ってゆーか、トモちゃんに決まってるでしょー!!! お腹減ってたのにー!!! 代わりのタイヤキ買ってこーい!!! 三倍返しだからなー!!!」
リンは、トモヤを部屋から追い出すと、ふぅ、と息を吐いた。寒空にトモヤを追い出したことに、少し罪悪感を覚えつつ、それでも、食べ物の恨みは怖いのだ、とお茶をいれるためのお湯を沸かしながら、リンは、考えていた。
(タイヤキには、お茶よね)
ピー、とお湯のわく音がした。
「ただいまー」
トモヤが腐抜けた声でドアを開けた。リンは、お茶を入れ、おかえり、と声をかける。ほかほかのタイヤキを袋から出し、リンは、嬉しそうに笑った。
「ちゃんと、三匹いる! ふふー、いただきまぁす」
リンは、にこにことタイヤキを頬張る。時折、お茶をすすっては、笑顔をこぼす様に、トモヤは、勝手に食べて悪かったな、と思った。
「ごめん、ね?」
一匹、タイヤキを食べ終えたリンが、おずおず、といった風に声をかけた。トモヤは、笑顔で首を横に振る。
「俺こそ、ごめんな?」
リンはニコッと返し、食べる? と、タイヤキを差し出した。
「お茶、いれるね」
リンは跳ねるように、キッチンに向かう。トモヤは、その後ろ姿を、笑顔で眺めていた。
キッチンから、戻ったリンは、また、叫んだ。
「タイヤキを、頭から食べるなんて、邪道だー!!!」
end
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12/03/21