「トモちゃーん。お腹すいたー。なんか持ってない?」
テンションだだ下がり、という雰囲気でリンは言う。仮にもキャンパス内でその様子。幾ら彼女が可愛くても、色気がなさすぎるというものだ。
それでもトモヤは手慣れたもので、手元にぶら下がっていた、購買の袋から、リンが気に入りそうな甘ったるい菓子パンを取り出して、リンの眼前にちらつかせた。リンは、パッと晴れやかな顔になる。
「持ってはいる。だが、やるとは言ってないぞ?」
「! ムカつく。ちょーだいよー」
「俺に見返りは?」
トモヤの言葉にリンは少し考えた後、ニヤリと笑った。
「明日、弁当作ってきてあげる!」
「よし乗った」
「さんきゅ! あ、ヤバい!! もう行くね!」
リンはトモヤの手から菓子パンをもぎ取ると走り去った。大方、次のコマに出るのだろう。
一部始終を見ていたトモヤの友人ーカズキーは、走り去ったリンを見送ってからニヤついた笑いをして見せた。
「黙ってりゃあ、ピカイチに可愛いけどな、あいつ。つーか、お前にとっちゃあ、黙って無くても可愛くて、メロメロですー。メロンパンですー。って感じか?」
トモヤは目を見開くと、耳まで真っ赤になった。
「あー……うん。何というか……好き、なんだ。リンは多分、俺をそういう目で見てないんだろうけど……」
照れくさそうに苦笑した後、トモヤは言う。バレバレだよな。でもさ、と続けた。
「都合の良い、飯出す機械かなんかだと思ってると思うよ、リンは俺のこと」
「お前、それ、辛くない?」
カズキが問うとトモヤは真顔で、その上、間髪入れずに答えた。
「リンが可愛いから許す」
「即答かよ!」
「即答だよ!!」
トモヤの心酔っぷりにカズキもからかう気が失せたのか、引いてしまったのか、溜息交じりにこぼした。
「……はぁ。ベタ惚れかよ」
「……おう」
トモヤも釣られて溜息を吐く。
「今更だけどさ、いつも余分に菓子パン買ってんのって、あいつにあげる用?」
「えー、あー……うん」
「正直言っていい?キモいわ。早く告れよ」
カズキは早く告白して、むしろ玉砕すれば良いと思って、アドバイスする。
「付き合えると思う? 俺がリンと」
「そんなもん、俺にわかるか」
「だよな。うーん。よし。告るわ」
案外と早い決断をしたトモヤにカズキは驚きつつも、頑張れよ、と形だけの応援をした。そんなカズキが驚きの余り、飲んでいたジュースを吹き出すことになるのは、約一週間後の未来の話。
end
話題:SS
14/04/17