「おしまい、おしまい。さて、感想は?」
「ウサギさん、とってもあわてんぼうだったね」
不服そうなその子。きっと、アリスはそのまま夢の国に居ると思ったのだろう。この子はいつも、何処か遠くへ思いを馳せているから。そして、それが無意味だと知っている。だから、言ってやったのだ。
「アリスはなんで、ウサギのこと追いかけて行ったんだと思う?それはね、日常から、逃げ出したかったからなんだよ。だからね、アリスは凄く強い子なんだよ」
強く脆いその子は、まん丸の瞳に、いっぱい、いっぱいの涙を溜めて、問うてくる。
「にげるのはつよいこと?」
「時と場合によってはね」
元来、頭のいい子なのだ。だから、こんなにも、強く脆く不安定に笑う。
「あのね、わたしくるしかった」
「うん。苦しかったら苦しいって、言っていいんだよ」
「でもきっと、めいわくになっちゃうもん」
「その迷惑も、人によっては、嬉しかったりするものだよ。僕はね、君が、そうやって、何でも言ってくれたら、とても嬉しいよ」
ポロポロと涙が零れ落ちた。真珠の様な綺麗な雫が、その子の紅い頬を伝う。
「あ、あ。ないちゃった。ごめんなさい」
「好きなだけ泣いていいんだよ。君の涙はとっても綺麗だから、僕は、見ていると嬉しくなる」
絶え間無く流れる涙は本当に綺麗だった。しゃくりあげまいと、噛み締めた唇が痛々しい。そっと抱きしめた。嫌がるかもしれない。嫌がったとしても、そうしてあげるべきなのは明白だった。胸の中にすっぽり収まるその子に声を掛けた。
「声を上げても、誰も怒らないよ。大丈夫。僕の前では、好きなだけ泣くといい。それで、スッキリするなら、とても嬉しいな」
きっとそれは、ありがとう、と言っていたのだ。けれど、くぐもっていて、上手く聞き取れなかった。僕はただ、胸の中で震える小さな背中を何度もさすった。
end
話題:SS
13/11/28