「杏子」

転がした音は愛しい愛しい女の子の名前。目の前のその子はたいやきをせっせと頬張る口をいったん止めて、くるりとあたしのほうに振り返った。赤い髪が宙で遊ぶように揺れる。その様は驚くほどに綺麗で、彼女を取り巻く眩しさに思わず目を細めた。杏子は、なんだよ、と女子にしては少し乱暴な口調であたしに返事をする。

「呼んでみただけ」
「はあ?なんだそれ」