「あなたがいないと生きてけません」

甘い甘い台詞が俺を取り巻いた。鼻膣をほんわりとくすぐるホットケーキの香りにメープルシロップをプラスしてさらにほわほわさせようとしたらこれだよ、おまえのばかみたいな言葉のおかげでシロップいらずの甘さになりそうだ。ごめんなおじさんそこまで甘党じゃないからもうそういうのお腹いっぱいなんだよ。

「あなたがいないとだめなんです」

うんそうかい。返事はそれだけでじゅうぶんだろう。俺がおまえに朝飯を作れるのは今日だけだし、意外に甘えたなおまえの駄々に付き合えるのも今日だけだ。おまえんちのフライパン使ってホットケーキ焼くのももうこれっきり。まあおまえの世話はこれからも焼くけどな。コンビとしては当然だろう。

「僕が朝ごはん抜きでお腹空かせて出勤してもいいんですか」
「そんときゃコンビニ行って弁当でも買ってきてやるよ」
「コンビニの弁当は好きじゃありません」
「んじゃ携帯食」
「朝昼同じもの食べろって言うんですか」
「わがまま言ってちゃモテねーぞ」
「あなたしか興味ないからいいです」
「ばっかだなあバニーちゃん」

おまえはまだ女のあたたかさを知らねーのかい。あんなにあったかいもんをおっさんに求めるのは酷な話だぞ。ワイルドタイガーさんは最近冷え性だしな、そのうちおまえまで冷ましちまうのがオチだよ。な、かなしい終わりしか見えないだろ。

「なんで決めつけるんですか、あなたのそういうとこ嫌いだ」
「おうおう嫌いたきゃ嫌いなさい」
「うそです嫌えません」
「めんどくせーなあバニーちゃんは」

ぴかぴかの白い皿にホットケーキがぱたりと乗る。その上にしかくいバターを背負わせて、真っ白いテーブルに二人ぶんをそっと置いた。ほら、朝飯できたぞ。そう声をかけた俺の背中にかけられたのは、蚊がなくみたいに小さいひとこと。やっぱり僕じゃだめなんですね、だって。うん、おまえじゃだめなんだよ。俺は薬指にはまった指輪がまだまだ大切なんだ。


どう考えてもイカ臭いことした次の日の朝