先生私を見て!半狂乱になってそう叫んだところで誰も私に手を差し伸べはしない。ただ抱きしめてほしいだけなの、どうして、どうして、どうしたら……。呪文のように呟いたって、目の前に広がる景色も変わりはしないのだ。なら私、うんと強くなってあなたを守るわ。それ以外はどうでもいい、人類のことなんて私にはわからない。あなたがいれば私は飛べるの。井田先生、好きよ、大好き。いいえ、愛している……。

頭がずっと痛む。視界は歪んで弾けて滲む。あなたの顔が見えなくなるわ。あなたの声が聴こえなくなる、あなたが触れてくれた指先の感覚がなくなっていく。私はこれからも東雲諒子でいられるの?あなたを愛している女のまま生きていけるの?それで生きていけないというのなら、私が私である意味がなくなってしまう。先生教えて、私はこれから誰になるの。あなたは私を見守り続けてくれるの?教えて先生、ねえ、いつものように私を導いて、そのレンズの向こうにある、つめたくてあたたかい瞳で私を見つめて、……。

私のものにならないあなた。私を利用し続けたあなた。ねえ先生、いいでしょう。いいえ、許されなくても私は撃つわ。他の何をあなたが見つめていたっていい、けれどせめて最後の瞬間にあなたの瞳には私が映っていたいの。お願いよ、だって私ほんとうに、あなたのためなら死んだってよかったのよ。あなたのためならなんだって出来た。あなたの目尻が少しだけゆるんで、口元がほどけるその瞬間を見るためならば、私、何をしたって幸せだった。引鉄に指をかける。私は言った、愛していると。「スタンモード、解除」

ここはどこなのだろう?まるで膜の中にいるようだ。誰かの声がぼんやりと、夕方のチャイムのように撹拌しながら頭に響く。私は誰だったか、そこにいるあなたは誰なのか、私の頭のずっと奥にいる『この人』は誰なのか。何もわからなくなっていた。泣きそうな眼差しでこちらを見つめる目の前の男の子が「もういいんだ」と呟く。いい気分だ。いい気分だ。体が軽くなっていく。軽くなって、軽く……。……、……。……『この人』は誰?どうしてこんなに鮮明に私の記憶にいるの?もう顔も声も思い出せないのに、どうして胸の中にこんなにはっきりと存在しているの。あなたは誰なの。わからない、わからないけれど、ひとつだけはっきりとわかることがあった。私、飛べるのね。そうなんでしょう。あなたのせいで私は飛べる。気がつけば足が勝手に前へ進んでいた。私を見て、教えて、忘れないで、いなくなって、愛して、……。愛しているわ、先生。