久しぶりに霊幻師匠に会った。しばらく旅に出ていたからこの街に帰ってくるのは久々だったけど、街も師匠もあまり変わっていなくて安心した。「モブ、元気か」と僕の肩を軽く叩く師匠を見上げて微笑みを返す。あ、身長は少し近づいたな。耳のかたちや笑ったときにできる目尻のかすかなしわがよく見えるようになった。
「大きくなったなあ」と彼はしきりに僕に言った。でも師匠よりは小さいですよ、と返したらそういう意味じゃないと笑われる。じゃあどういう意味なんだろう。久々にラーメンでも食うかと誘われたけど家族との食事の予定があったので悪いと思いつつ断った。
「そうか。まあ、家族孝行はできるうちにしておいたほうがいいしな」
そのとき、師匠の瞳がすこしだけ揺れた。あれ、と思った。師匠の感情がこうして外側に現れるようすにあまり馴染みがなかったからだ。珍しいな。いや、僕の背が伸びたからこういうことが見えるようになっただけなんだろうか?わからないまましばらく師匠の目を見つめていたけれど、どうした、と尋ねられて慌てて会話に意識を戻した。
師匠はとりとめのない話をいくつか僕に話した。エクボには早く成仏してほしいだとか芹沢さんに彼女ができたとかたまに街で偶然律や花沢くんに会うだとか、他愛もない話は止まらない。みんなの近況が聞けるのは純粋に嬉しかったけれど、やっぱり師匠の仕草や言動の中にたびたび現れる何かが気になってあまり集中できなかった。