「なあ、あんたは女神を信じてるかい」
隣に立った少年が不意に私にそう言った。確か彼はリーガン家の嫡子、盟主の孫のクロードではないか。飄々とした彼の態度はまさかそんなたいそうな身分の人間などには見えやしないが、実際は一国を左右する鍵のような人物だ。てきとうな態度を取るわけにもいかず、私は当たり前を通り越したある種滑稽な質問に対して至極真面目に返答をした。
「それは勿論、信じています。なんといったって私はセイロス教の騎士団なのですから」
当然の返事を受け、彼は何故だか不満げな顔を見せた。ふうん、と呟き目をすがめ、つまらなさそうに私を見つめる。
「女神は素晴らしいとみんな口を揃えて言ってるが、誰もその存在を見たことはない。本当に見守ってくれてるとあんたは思ってるのか?」
「ええ。そう教えられてきていますし。女神様は確かにいらっしゃり、我々を天からお導きくださっていると考えていますよ」
「お導きねえ」
どうにもおかしな言い草である。仮にもフォドラに身を置く人物、しかも同盟の中心人物が、一介の兵士相手にこんなにも不信心を露わにしていてよいのだろうか?誰かに聞かれでもすれば大変な事態に陥りそうなものだが。それでも彼は話を止めない。
「あんたはさ、考えたことは無いのか?女神がいない可能性。それか、女神の他に神がいる可能性」
「あるわけがないでしょう。女神様はこの大地に存在する唯一無二のお方です」
「その根拠は?」
「それは、……」
そこで言葉に詰まったことに、自分でも驚いた。なぜ言葉に詰まる必要がある?根拠などあるに決まっている、なぜなら女神は……。……女神は、いかなるときも我々を救ってくださったのだから。天より雨が降るのは女神様のおかげで、それにより作物が育つ。それを子供達が食し、成長し、いずれ国を守る騎士や人々に食材を届ける商人になる。そうして営みは作られていく。その元の始まりは、天より雨を降らせたもうた女神様だ。そう、子供の頃から教えられてきたのだから。私の認識のどこに間違いがあろうか?……彼の緑の瞳はじっと私の答えを待っていた。
「……失礼ながら、雨が降るのはなぜかご存知で?」
「雨?さあ、俺は知らないな。空をじっくりと観察でもできたら解き明かせるのかも知れないが、何せ確認する術がないからなあ。……なんで確認する術がないんだろうな?」
「……?何を仰っしゃりたいのか、よくわかりませんが。ともかく、雨は女神様が降らせてくださるのです。女神様のおかげで我々は作物を育て、食し、生きてゆくことができる。フォドラに暮らす民ならばご理解しておられるかと思っていましたが」
「おっとそりゃ失礼、浅学なもんでね。……女神様が、雨をねえ。本当に全能なお方だ。はは」



クロードのこと勝手に恨むモブになりたいよね〜みたいな…アレ(?)