現パロ
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「キスしてくれよ、先生」
明日から冬休みだと浮かれながら生徒たちが出ていった放課後の教室、夕陽の差す席のひとつに座りながらクロードはそう呟いた。日誌にコメントを書く手がうっかり止まってしまわないよう気をつける。
「冗談言ってないでもう帰りなさい」
「冗談に聞こえたか?なら悪い。本気だ」
「それならより帰さないといけない」
「明日から冬休みだぜ」
取り付く島を海の彼方に流しながら彼はそう言った。文脈がうまく読めない。
「冬休みだからなんだ」
「今俺にキスすれば、あんたは薔薇色の冬休みを送れるよ。毎日俺とどこかに出かけて飯でも食って、ああこれは勿論あんたの奢りだが。それで夜はあんたの家に帰って人目を気にせずにキスができる。さらにその先も可能だ」
「……クロード。先生、仕事中なんだが」
「じゃ今すぐ終わらせてキスしてくれ」
「怒るぞ」
「あんたの怒った顔好きだよ」
外から野球部の楽しげな声が響いた。次いで、カキン、と大きな当たりを思わせる音も。「ナイス」と叫ぶレオニーの声がして、その他の何人かの歓声もちらほらと上がった。
「本気だよ、惚れてる。こんなはずじゃなかったんだが。……卒業までに振り向いてほしい。焦ってる」
キスしてくれ。改めて呟かれた言葉はわざと鼓膜にこびりつくように唱えられたのがよくわかった。結局全部彼の策謀のうちなのは理解している。不必要なほど真剣な眼差しも、冬だというのに首筋に滲んだ汗も。
……自分と同じく教師である父は、よく自分にこう注意をする。ベレト、お前は生徒に甘すぎる、と。地面に転がった赤ペンはしばらく誰にも拾われなかった。