兄さんから紹介されたその人は芯の強そうな美しい女性だった。この人との結婚を考えている、と兄は僕に伝える。なんだか高嶺さんに似ているね、あと雰囲気は少し霊幻さんと同じものを感じる。やっぱりこの人はこういう人間が好きなんだ。よろしく、と手を差し出され笑顔でそれを握った。
兄さんはその女性のどこが素晴らしいかをたくさんの時間を使って僕に話した。彼女はそれを照れくさそうに聞きながらも、頬を赤くして喜んでいた。僕は適切な相槌を打ちながら微笑んでいる。膝に置いた手をきつく握りしめながら。時計の秒針の音がいやにうるさく鼓膜に響いた。兄さんが僕の名前を呼ぶ回数をなんとなく数えていたけれど、今日はあまり呼ばれないから途中でやめてしまった。
「茂夫くんとの出会いは運命だなって、ちょっと思ってるんです」
恥じらいながら彼女がそう言って、隣の兄さんも顔を赤くさせた。それはすごい、そう思えるほどの出会いってなかなかないですよ、と耳触りのよい言葉を投げる僕。自分なのにまるで他人のようだ。運命なんて持ち出してもいいのなら、僕と兄さんはどうなるというんだろう。兄弟として同じ姓に生まれてきた僕らは紛れもなく運命の二人ではないのか?そんなふうに柄にもなく馬鹿馬鹿しい思考ばかり巡る。でも考えてしまうのだ。
「すみません。質問してもいいですか」
「はい、なんでしょう?」
あなたは曲がったスプーンを完璧に元の形に戻せますか?
超能力を使って。
なんて、言えるわけがないんだ。もう全部が遅いのだから。
「……二人はどこで知り合ったんですか?」