高校から制服がブレザーになった。ネクタイを結ぶのが難しい。春休み中に花沢くんに結び方を教えてもらって、なんとか格好悪くないように結べるようになった。
「おーおー、モブがネクタイしてやがる」
師匠はブレザー姿の僕を見て可笑しそうに笑った。何が可笑しいんだかわからないけど少し照れる。ソファーに座っている師匠は事務所の入り口に立つ僕を手招きした。それに従って師匠の前まで歩いていき、向かいに座ろうと思って彼を通り過ぎかけたときにがしりと腕を掴まれた。
「練習したのか?」
師匠に腕を離す気配はなかった。仕方なく横に座って、はい、と返事をする。僕を見やる瞳が何を考えているのか汲み取ることはできない。
「花沢くんに教えてもらって」
「へえ」
と、師匠の指が僕に伸びた。それは僕の顎をなぞる。突然のことにびくりと体を震わせてしまった僕に彼は小さな声で「動くな」と囁いた。その口が楽しそうに歪んでいる。猫にするみたいに首の下を撫でられて、次に喉仏に触れられた。
「ちゃんときれいに出来るようになったんだな」
首筋をゆっくりなぞられて、つい息を呑んでしまった。くすぐったい。背筋がぞわぞわする。師匠の指は下降して、やがて僕のネクタイの結び目にたどり着く。形を確かめるように触られたあとにずぼっ、と襟元に指を突っ込まれた。一方師匠のもう片方の手は僕のブレザーのボタンを外している。器用ですね、なんて軽口をたたこうと思ったけれど喉がかさついてうまく声を出せない。ネクタイが彼の手によって緩んだ。
「せっかく頑張って結んだのになあ。悪いな、モブ」
絶対悪いなんて思ってないだろ、あんた。外されたネクタイが床に落ちて、拾う間もなく首筋にキスをされた。俺のも外せよ、という言葉を耳に吹きかけられたらもう拒むこともできない。……この人のネクタイも床に落としてやろう。僕にできる抵抗って今はそれくらいだ。