「今日学校で習ったんですけど」
「なにを?」
「これの付け方」
モブは学ランのポケットをごそごそと探ると、そこから何かを取り出した。そうして俺の眼前にずいと突きつける。四角い包装の中に丸い何かが入っている。飴かな?飴だよな。アレに酷似しているが、モブがそんなもんポケットから出すわけがない。
「コンドームです」
思いのほかはっきりと答えを提示され椅子からずり落ちそうになった。なんとか踏ん張りながらハハハと乾いた声をあげる。
「なんでそんなもん持ってんだ?」
「失敗したふりして一個もらってきました」
モブとは思えぬ知能犯ぶりに胸中の狼狽は極まる。性への好奇心を前にはあのモブも積極的になるということなんだろうか。そうなると、睨めるように俺を見る目を意識しないわけにはいかなかった。
「師匠」
「なんだよ」
少し緩んでいたネクタイをきつめに調節しながら視線を返す。モブはじっと俺を見つめた。見つめながら、それの封をゆっくりと切った。
「習ったから、もう付け方わかるんですよ」
「……それが何?」
モブが中から取り出されたゴムをつまむ。瞳が逸らされることはない。じっと俺を見ながら、師匠、ともう一度名が呼ばれる。
「試したいんですけど、練習付き合ってくれませんか」
なんで俺が、と言ってしまえばよかったのにあろうことか言葉に詰まってしまった。何か言わなくてはいけないのに。ひとまず立ち上がろうと机に手を置いたらそれを捕らえられる。今日何度目かの「師匠」が繰り出されたが、そこに懇願するような響きと熱を感じ取ってしまいついに俺は退路を断たれてしまった。 



ゴムの日に思いついて今日書いた
ウンチーコング