「熱中症ってゆっくり言うてみて」
言うと、内海は無言で俺のほうを向いた。完全な無表情。その視線はすぐに俺から逸らされ、無表情男はスマホを取り出した。やがて検索画面を俺に見せてくる。『熱中症 ゆっくり』。検索結果、『ねえ、チューしよ』。
「ネタが古いねん」
「古いとかある?こういうの」
「だいたい今真冬やねん。熱中症と縁遠い季節にチョイスするネタちゃうやろ」
鼻の頭を赤くした内海が俺を睨みつけてくる。あまりの寒さに悴んだ自分の両手はポケットの中で震えていた。今日は朝に雪が降ったらしいから本気と書いてマジで寒い。熱中症のねの字もないのは百も承知ではある。
「でもべつに真冬に熱中症のこと言うてもええやろ。常日頃から温暖化によって深刻な暑さになっていくこれからの夏を一足先に心配してる気持ちがまろび出てもうてん」
「その心配の種を不純な動機に利用しようとしてもうてるやん。薄い偽善やな」