「霊?」
「はい」
出るんですよ、この家。幻太郎は至極真面目ぶった顔でそう言い切った。読んでいたパチスロ雑誌から顔を上げて、真意を探るためその目を覗き込む。書き物用の机の前に正座しながら俺を見下ろす男の表情は、想像したとおりの真剣そうな真顔だった。
「うちはなかなか歴史のある家で、そのぶん歴代の人間の感情がたくさん籠もっているんですよ。中にはそれがはっきりと遺りすぎて、怨霊と化してしまっている人もいるようで」
「おいおい。さすがにそんなうさんくせー話信じるわけ……」
「ほら、いま帝統の後ろにも」
「うおおッ!」
慌てて横にしていた体を起こしその場から飛び退く。息を呑みながらおそるおそる後ろを振り返った、が、そこには何の存在も居はしなかった。
「なんもいねーじゃねえか!」
「ああ、帝統はんは霊感があまり強くないんどすなあ。わちきにははっきり見えますえ」
「え……マジ?」
どっ、と顔に汗が湧き出す俺を見ながら幻太郎はくすくす笑った。いや笑い事じゃねえだろ、お祓いとかしろよ。もし呪われたらどうすんだ。悪霊の呪いのせいでギャンブルに勝てなくなっちまったら、俺はもう生きていけねー。
「まあ、満足すればそのうち出ていくんですがね。くれぐれも気をつけてください。夜は特に」
「よ、夜?」
「夜は霊力が強くなるんですよ。だから、もしかしたら鈍感な帝統にも霊が見えるかもしれません。あまつさえ手を出してくるかも」
さらさらーっと原稿用紙に筆を走らせながら幻太郎はあっけらかんとそう言ってくる。つまり、実害があるかもってことか?それってかなりヤバくねーか。つか、こんな弱そうなのに一人でこんなとこ住んでて大丈夫なのか、こいつ。涼し気な顔で手元に目線を下ろしてる幻太郎の近くに寄って、そこに腰を落としてからあぐらを掻く。ずっと畳の部屋にいるせいなのか幻太郎からはい草っぽい匂いがする。
「お前、住む場所変えたほうがいいんじゃねえか?危ねえだろこんなとこ」
「おや。心配してくれてるんですか?」
紙から離れた目がそのまま俺に向いた。そこそこの距離だから、やたらにバサバサした睫毛と目の中に差す明るい色の光までよく見える。障子から入る太陽の光も差して、幻太郎の目の緑がちょっとばかし薄く見えた。
「そりゃまあ、ダチが呪い殺されたら胸糞悪ぃし。お前弱っちそうだから襲われたら勝てねえだろ」
「……一言多い気もしますが、心配してくれてどうもありがとうございます」