お題お借りしました(shindanmaker.com/587150)


・瀬戸内海(ほぼセトウツ)

僕と想くんは恋人同士だったが、想くんは僕に興味がないようだった。いつか彼がある日突然僕を忘れてどこかへ行ってしまうのではないかと思うと怖くて、そうだ、彼の体に傷を残しておけば彼は僕を忘れないではないかと気がついた。口から血を流す彼がつまらなそうに僕を見つめて呟く。「しょうもな」
(モブウツ)

「首んとこの赤いやつ何?」「ああ、蚊に刺されてん」これを尋ねるまでの緊張を内海が気づいてるかは知らんが、とりあえず杞憂だったらしいので密かに安堵した。にしても鎖骨なんか噛んで血吸えるんか。考えろや、蚊。妙な心配の種を作るな。「今日から蚊取り線香使えよ」「…何でちょっとキレてるん」
(お題/鎖骨に咲いた赤)

父親が僕を殴る時、そこに理由や倫理や正義は存在しなかった。「想くん。お母さんね、想くんには立派な大人の人になってほしいな」これは殴られる僕に今や見向きもしない母が昔言った言葉。「姉さん、大人って見たことある?」「…ん?想くん、お父さんもお母さんも大人やで?」「……そっか。そうやな」
(お題/大人になりたくない)

「最近ちょっといい感じになってる子おるねんけど」「へえ。付き合うん?」「さあなー、向こうどう思ってるかまだいまいちわからんしなあ」こんな感じで話し続けてから30分後、不意に内海が言葉を詰まらせた。沈黙のあと、やたらに小さい声で呟く。「まあ、よかったな」お前そんなに嘘ヘタやったかな。
(お題/素直に言えよ!)

バス逃してまた家帰られへんわ、と話の流れでLINEに書いたら瀬戸が川に来た。べつに来んでええのにと言ったらそれは俺の勝手やと返され、そこからはいつもどおりの会話が始まる。「今日のこと一生忘れへんのやろな」ふと出た本音に一人焦る。瀬戸に聞こえていないように祈るが、たぶん聞こえている。
(お題/朝四時、ランデブー)

『えー、堺市…堺市なん?知らんけどまあどっかからお越しの内海想くん。顔は男前やのに滲み出すネクラが隠しきれてないのが特徴の内海想くん。お連れ様が川でお待ちですよー』「精神攻撃してくる迷子アナウンスってなんやねん。ほんで情報も曖昧やし」放課後に図書室で本を借りようとしていた時、瀬戸からそんな着信があった。『何借りるん?』「…『燃焼学』と『火災の科学』」『チョイスがもうネクラやん』回線の向こうで弾む声を聞きながら、なんとなく借りる気分ではなくなって本棚に本を戻した。「今から行くわ」『おう待ってるわ』
(お題/迷子のお知らせ)

部屋で大学のレポートを纏めている最中、急に瀬戸にキスをされてそのまま押し倒された。腰が痛い。明日休みでよかった。落ちてたで、とメガネを手渡してくる男に非難の目を向ける。「見てこれ」「え?」「メガネゆがんでる。お前がめちゃくちゃするから」「…今のエロいわお前」「は?基準がわからん」
(穂村弘先生のエッセイネタ)

「樫村さんとデートすることになってん」絶対嘘やん、と言おうとして横を向いたが瀬戸の手は事実ですと言わんばかりに小刻みに震えていた。怪訝をとっさに喉の奥に押し込め、別の言葉を用意する。「よかったやん」「緊張で漏らしそうやわ」脂汗をかく瀬戸の横顔を見て少し笑った。うん、これが正しい。
(お題/きっとそれで正解)

「好きな奴がおるねん」内海くんの目は暗く光って、表面のつるつるした感情を無造作に投げつけながら私を見つめるのだった。そういうとこ昔と何も変わってない。久しぶりに会うからってマニキュア塗り直してまつエクした私あほみたいやな。「瀬戸くん?」「ちゃうよ」この期に及んで嘘までつかれるし。
(内海+樫村・お題/運命なんて、くそくらえ)

「なんなんさっきの」「え?」「俺の内海に手ぇ出したら絶対許さんとか言ってたやん」ニダイメに対してまさかの二回目の奇襲をはかってきた犯人をなんとか撃退して縛り上げていた時、内海が不意にそう言ってきた。「…いや、それやったらお前もやん。瀬戸になんかあったら困る、とか言うてたやん」「…それは…」二人とも口を噤む。しばらくの間謎の沈黙が場を支配した。普段みじんも気にせん川のせせらぎがやたら大きく聞こえる。


・ロボノ

「先生は1秒をただの1秒にしか感じたことないでしょ?俺にあんたの気持ちはわからないし、あんたにも俺の気持ちはわからないよ。一生」そう言うと八汐海翔はこちらに微笑み、その後すぐ私に踵を返した。私が瞬きをして、間抜けな顔で彼への返答を考えた今の1秒で、私はどれだけ彼を傷つけたのだろう。
(モブ海)

「…アキちゃん、アキちゃん聞こえる?俺だけど。うん、そう、海翔。宇宙に来てもう三日目だ。無重力って変な感じだね、当分は慣れそうにないよ。そっちはどう?みんな元気?ああそう、それはよかった。アキちゃんも元気そうだね。うん、ああ、そうなんだ。また詳しく聞かせてよ。じゃあまた連絡する」
「アキちゃん、久しぶり。なかなか連絡できなくてごめんね。元気?……うん、それならよかった。こっちはね、いま冥王星のあたり。知ってる?冥王星にはハートの形のクレーターがあるんだ。かわいいよ、なかなか。また地球に配信されると思うから、動画見ておいてよ。……うん。じゃあまたね」
「……アキちゃん?ああよかった、繋がった。海翔だよ。元気?……うん、ごめんね。もうずっと連絡してなかったよね。アキちゃんは今……。……そっか、もうそんなに…。アキちゃん、今は何してるの?…うん、うん。……うん。ごめんね。絶対に帰るよ。だから……、……うん。また連絡するから、絶対」
「……アキちゃん。繋がってるかな。今、予定してた航路と大幅にずれてることがわかった。まだ帰れそうにない。帰ったとしても、地球ではどれくらいが経っているかわからない。……アキちゃん。俺は無責任だね。昔からアキちゃんを待たせてばっかりだ。ごめんね。……君が幸せになることを祈ってる」
「もう回線なんて機能してないよな。でも、もし…、いや、繋がってないことを願うよ。…こなちゃん、AIRIについに限界が来た。ただのデブリを新しい惑星だって誤認識するんだ、最近。でもまだ会話機能は動作してるから助かるよ。…アキちゃん、もう結婚はした?見てみたいな、アキちゃんの子供。……」
「……AIRIがほとんど停止しかけてる。……もうすぐ一人だね、俺は。みんなは今どこにいるんだろうな。ああ、なんか懐かしいな。高校生の頃は毎日、うっとうしいくらい騒がしかったな。ロボ部のみんながいて、アキちゃんがいて……いつも何か聴こえてた。静かだな、ここは。……寂しいよ」
(八汐/ちょっとインターステラ―パロ)


・その他

第四次世界大戦の勃発であっという間に人類は滅亡の危機に陥った。独歩はさっきからボロボロに崩れた元職場をじっと眺めている。「派手に壊れちったなぁ」「そうだな。もう電話も繋がらない」だからかかってくることもない。言って、独歩は笑った。「人生は夢だらけだな、一二三」「そーだなー!」
(ヒプマイ/どひふど)