「瀬戸」
「なに?」
「お前、したことあるん。こんなん」
「ないよ」
シャツの下に差し入れた手は内海の乳首に触っていた。寒いせいかこの状況のせいなのかわからないがピンと立っている。当たり前だが内海の胸は柔らかくはない。でもそんなことはどうでもよかった。内海のちくびに触っているのだ俺は。内海のちくびに。
「彼女できたことないんやっけ?」
「ないない」
「サッカー部入ってるときモテてたいうてたやん」
「でもほんまに好きやないと付き合いたくなかったからなあ」
「昔も今も純度100%の乙女やな」
いろいろ会話しつつ俺の意識はもう内海の肌とか息遣いとかあったかさとか乳首とか乳首とかに捕らわれていた。めちゃくちゃ擦り合わせて摩擦であったかくしたつもりだが、それでもやっぱり俺の手は冷たいのかさっきから内海がびくびくと体を震わせている。申し訳ないと思いつつそれにすら興奮するから重ね重ね申し訳なかった。暖房いつきくねん、ごめんな内海。乳首いじったら怒られるかな。ごめんな内海。
「っ」
親指の腹で乳首を撫でるように押してみると、内海の体が今日一番大きく跳ねた。震えた吐息が口から漏れる。指はなにかに耐えるようにじゅうたんを引っ掻いていた。頭がぼーっとする。仏像より仏頂面なときのある内海が、俺が触っただけでここまで反応するのか。まゆげが歪んだりまつげが震えたり目の奥が濡れたり、それが全部俺の手柄だというのか。みんな、内海ってこんなにエロエロなんやで知ってる?まあ誰にも教えへんけども。
「痛くなかった?」
「痛くはない」
「気持ちいいとかは」
「わかれへん」
いつもよりずっと子供っぽい口調でその舌がまわる。ちょっと不安そうではあるが嫌がっているという感じではなかった。もう一度乳首を撫でて、次はちょっと摘んでみる。
「あ、それちょっと痛い」
「えっ!ご、ごめんなさい」
なぜか敬語になりながらすぐさま手を離す。内海は軽く息を吐いて、自分の手をシャツの中に滑り込ませた。胸をさすりながら俺をちらりと見てくる。
「……いや、わかれへんわ。もう一回触って」
「え?」
「もう一回触って」
二度目の『え?』を繰り出すがヤクザ漫画の一番怖いヤツみたいな目で睨まれたので大人しく口を噤む。今の録音してたらよかったなあと思いながらまた内海の胸に手を滑り込ませた。無事ちくびまでたどり着き、さっきのリベンジで優しくそこを摘む。
「ん」
「……どう?」
「……」
わかれへん。今日何度目かのそれが飛び出す。頭よくて何でも知ってる内海が、今なんにもわからず戸惑っている。それだけで脳みそと胸のあたりが沸騰しそうになった。怒られるのを覚悟でもう一回触ると、また小さく吐息が漏れる。でも痛そうとか嫌そうとかそんな素振りではないように思えた。むしろ、ちょっと良さそうやけど。さっきよりも目が熱っぽくなったように見える。
「あー……悪くはない?」
「……ていうかさっきから乳首ばっかり触りすぎちゃう?なんで乳首なん」
「ええ?なんでって言われても」
「なんも出えへんで」
「……そんな母乳的なもんは期待してへんけど」
改めて内海の体を正面から見据える。薄く色づいたその二つは、内海の心配になるほど生白い肌の上で際立って見えた。それがどうにも、特別感があるように思える。見てはいけないものを見ているような、非日常的な感覚がする。これは言葉で説明するのは難しい。が、あえて簡潔に言うならばこれしかない。
「お前の乳首さわれるのが幸せやねん」
「……ありがたい壺みたいな扱いやな、俺の乳首」
もうええわ、と言って内海は諦めたように肩の力を抜いた。その乳首は相変わらずぴんと立っている。暖房はすでにきき始めているので、今のこれは寒さのせいではないらしかった。……つぎ、舐めたら怒るかなあ。ごめんな内海。