志村貴子先生「すてきなあのこ」パロ
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高校三年生になり、気持ちを新たにしたくて今までと違う時間の電車に乗ることにしました。そこで転子は夢野秘密子さんと出会ったのです。今まで見たどの女の子よりも愛らしいルックスは転子の胸に感動すら芽生えさせました。転子は夢野さんの隣に並んで、毎日彼女の横顔を見つめました。ちなみに名前は彼女が電車を降りる瞬間に出した定期券を見て知りました。名前まで愛らしいのです、奇跡のようなお人です!毎日彼女の顔を見ながら電車に揺られる日々はとても幸せでした。
「のう、お主」
ある日のことです。決してこっちに振り向かない、額縁の中の絵のような存在であるはずの夢野さんが、突如転子に視線を向けました。動揺して固まった転子に彼女は一言こう言います。
「そうやってじっと見られると居心地が悪い。やめてはくれんか」
その日家に帰って転子は二時間くらい泣きました。落ち込んんで落ち込んで、もう食事も喉を通らないほどでしたが、でもさんざん泣き明かした末に頭に浮かんだのは「声すら可愛いなんて、本当に奇跡だ」という一言でした。それに、誰かが転子の頭の中でこう囁くのです。気にするな、むしろ話す切っ掛けができたじゃないかと。転子は突き進むことを決めました。毎朝電車で会うたび話しかけ、思いつく限りの言葉で彼女を褒め称えました。夢野さんの表情はいつも同じなので何を考えているかはよくわかりませんでしたが、毎日見ているうちに少しずつ感情の機微を読み取れるようになってきました。もっとも大抵の感情はプラスなものではありませんでしたが。
「お主、いい加減にせんか。お主に構っていられるほどウチは暇ではない。ウチは魔法使いになるための修行で忙しいんじゃ、わかったらとっとと失せい」
またある日のことです。夢野さんは珍しく怒りを露わにしながらそう言い切りました。あまりに自然に言うものなので、最初違和感を覚えなかったほどです。魔法使いになる修行だなんて、突然何を言い出すのでしょうか。「ただでさえ大学受験と魔法の両立で忙しいというに」と呟きながら夢野さんは転子から視線を逸らします。ああ同い年なのだ、とこのとき初めて知りました。
転子はしばらく考えました。魔法使いとはどういう意味なんでしょう。転子を遠ざけるための嘘だったのでしょうか? けれど、嘘という雰囲気ではありませんでした。考えれば考えるほど、やっぱり転子は夢野さんのことが気になって仕方がなくなってしまいました。夢野さんは少し変わった女の子なのかもしれませんが、そんなことは気にならなくなるくらいの眩しさを強く放っていたのです。