「亜双義、乳首を吸わせてくれないか」
唐突な成歩堂の言葉に亜双義は目を丸くした。乳首、乳首と言ったか、このオトコは。それに加えて吸わせてくれとも言った気がする。いや待て、己の聞き間違いかも知れぬ、と亜双義は念の為聞き返してみたが、返ってきた答えはやはり「乳首を吸わせてくれないか」というものだった。いったい何を言っているのだコイツは。まさか昼から酒でも嗜んでいるのではあるまいと鼻を動かしてみるがそういった臭いは少しも嗅ぎ取れない。素面で、しかも澄んだ目でこのように素っ頓狂なことを口にする友に亜双義はいっそ感銘すら覚えた。
「まあ、理由を訊いておくとしよう。何故オレの乳首を吸おうとする?」
「詳しくは言えないんだ。でも、のっぴきならない事情で今すぐおまえの乳首を吸わなくてはならない」 
どうのっぴきならなければそうなるのか。詳しくは言えないが乳首を吸わなくてはならない事情とはいったいどのようなものなのか?若くして様々な経験を積んできた亜双義だったが、自身の人生経験に基づいてもそのような状況に陥る場面を想像することは容易ではなかった。酔っているのでなければ寝惚けているのではないかとその目を見つめたが、はっきりと開かれたそれは深刻な色を黒の中に浮かばせている。どうやら成歩堂は本当に真剣に頼み込んできているようだった。
亜双義一真は成歩堂龍ノ介という人間をよく理解している。詳しく言えないとしているその事情がよほど大切なものであるだろうことは成歩堂のその眼差しを認めればすぐに分かった。唯一無二の親友が目の前で困っていて、そして自分を頼ってきている。亜双義にとってそれは首を縦に振るにはあまりに充分すぎる条件だった。
「……仕方がない。キサマにオレの乳首を吸わせてやろう」
「ほ、本当か!」
「ああ。それでキサマが助かると言うならばいくらでも吸うといい」
「ありがとう!恩に着るよ、親友!」
都合のいいときだけ親友呼ばわりをするなと言い返そうとしたが、あまりに成歩堂が喜びの感情を露わにするので亜双義は自分の言葉を喉の奥に押し込めるのだった。


『やあやあミスター・ナルホドー、せっかく倫敦に来たっていうのに毎日読書とはシメっぽいにも程があるというものだよ。どうせならボクとゲームでもしようじゃないか!モチロンただのゲームじゃあつまらないから罰ゲームも用意しておくよ。そうだなあ……負けたほうは指定された人間の乳首を吸う、というのでどうだい?』
それは成歩堂が人生で体験した『罰"げえむ"』のうちで一番突拍子が無く耐え難いものだった。そもそも、何故『乳首を吸う』なのか?『乳首を吸う』という行為はそんなにさらりと出るほど普遍的な罰"げえむ"なのか?あらゆる事柄を思考している間に成歩堂はホームズとゲームを進め、そして負けた。



三人称視点の文の練習するぞ!と思って書いてたけど内容もうちょっとなんかあるだろと思った