「おっさんなぁんもないのよ。中身空っぽ!空っぽっぽー……」
なんて言っておどけている途中だった。突然青年の重い拳一発が俺様の横っ面にキレイに入る。え、何、ヤダDV?とか言ってふざけてみせるが青年はいつまでも無表情。漆黒の眼差しが死刑執行人みたいな顔で俺を見下ろしていた。あ、いやこれちょっとフキンシンね。見つめられるだけの俺はただただ手持ち無沙汰だ。
やがてユーリは俺の顎をガッと掴んだ。そして──なんと強引に唇を重ねてきた。いや何、そんな流れだっけ?困惑している間にも舌は入り込んでくるし肩を強く抱かれて逃げ道を塞がれるしでさらに頭がパニックを起こす。ぬる、と異物は妖怪みたいに蠢いて俺の口の中をまさぐった。超至近距離でユーリの睫毛が揺れている。髪もつやめきながら俺の顔やら首やらをくすぐった。何食ったらこんなキレーな髪になんのかしら。酒場の女の子が羨ましがってたわよ。……バカらしいことでも考えてなきゃ向こうのペースに飲まれてしまう。
さんざん楽しんだあとにユーリ青年はようやく口を離し俺を解放した。消えない感覚と余韻に参りつつ自分の頬に手を添え「何してくれてんのよ」と精一杯おどけた声を出す。ユーリは涼しげな目で俺を見るなりにやりと笑った。
「愛してるぜ、レイヴン」
「……はい?」
「オレが死ぬまであんたに愛情詰め込んでやるから、あんたはもう空っぽにはなれねえよ」
残念だったな、と言ってユーリはまた俺にキスをした。何だそれは、ちょっとキザすぎない?ていうか『死ぬまで』っつったってもう死んでるんだって。俺はもうここにはいないのだ。でも言ったらまた殴られそうだから言わなかった。最近の子ってコワイわ。