「じゃあボク、ユニオン本部に行ってくるよ。二時間後にここに集合だからね、忘れないでよ!」
カロル先生がそう言って元気よく本部に駆けていったのが数十分前、オレが宿屋でフレンとばったり出くわしたのも数十分前。任務の空き時間か何かで一、二時間のあいだ暇らしく、いったん落ち着ける場所で休憩しようとしていたらしい。つまりオレと同じ目的だ。どうせ互いに休むだけなんだから同室を取ろうかという話になり同じ部屋に踏み入ったのは十分程前だ。入るなりベッドに寝転んだオレを尻目にフレンは静かに鎧を脱いで黙々と手入れを始めた。
……で、それからさらに数分後。オレは今フレンと同じベッドに腰かけ、口の中に舌を割り入れられている。何がきっかけだったっけ?これといった始点はなかった気がするが、気づけば「そういう」雰囲気になっていた。まあこいつとのあいだではよくあることだ。触れている舌が熱い。
「休憩するんじゃなかったのか?フレン隊長」
ようやく口を離された隙にそう訊いてみると、フレンは「君こそこんなことをしていていいのかい」と返してきた。フ、とわざとらしく笑いながら首に手を回してやる。
「こんなことってどんなことだよ。詳しく言ってくれなきゃわかんねえな」
「……やっぱり君は少し黙っていてくれ」
言うや否やフレンの唇がまたオレの口を塞いだ。舌を強引に絡め取られ言葉を奪われる。口で勝てないからって、代わりに妙な対抗策を覚えちまったもんである。フレンの赤はオレのそれを吸い上げ愛撫すると今度は焦らすように歯列をなぞった。やたらキスが上手くなったのはいったい誰のせいなんだか。
キスを続けながらフレンはオレの胸元に手を滑り込ませた。その手のひらの熱さが肌に直接伝わってくる。暇を持て余していた手で耳の形をなぞってやると、わずかにフレンの指が揺れた。至近距離にある金色の睫毛も少しだけ震える。と思えば瞼がゆっくり開いていった。唇がまた離されて、フレンがぼそりと一言を放つ。
「どうして目を開けているんだ」
「さあ?」
にやにやと笑えば目の前の幼馴染はため息を吐いた。それでもオレの体をまさぐる手は止まるどころか下へ下へと下降していくもんだからなかなかにスケベな隊長さんだと言える。首筋に唇を落とされるのとほぼ同時に腰布を解かれ、その手慣れた様子が妙に可笑しくなってフレンの頭を抱きながらばれないように笑った。
「急げ急げ。時間あんまりねえぞ」
「わかってる」
「優しくされてる暇なんかねえからな」
「……」
察しのいい男は今までよりも荒い手つきで肌に触れてくる。こういう触られ方は嫌いじゃない、それにこいつの余裕をくずすのはいつも楽しい。理性をわざと捨て去った青色の目に射抜かれながら、頭の中で密かに残り時間をカウントした。