未プレイ時に書いたもの
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手を繋いだ。誰と、どうして、いつ。そんな全ての質問に対して簡潔に答えるとするならば、今ルシフェルと、驚くほど自然に、しかし唐突に手を繋いだ、で伝わるだろうか。私の手は彼の手には収まらず、この手すべてに彼の温もりが覆い被さることはなかったけれど、しかしとても、繋いだ箇所が暖かい。むしろ暖かいを通り越して熱いと言えるような温度にまで上昇しているのは手だけではなく、顔もまた火が出そうなほど熱くなっていた。恥ずかしくて、照れくさくて、なのに心は弾む。隣のルシフェルをおそるおそる見やると、ほんの少しだけ微笑まれて。ああ私はどうすればいいんだ、このままでは体が沸騰してしまう。あなたには体温がないと聞いたはずなのに、いとも容易く私に熱を持たせてしまうじゃないか。天使に体温がないだなんて本当は嘘で、誰しもを溶かしてしまう炎のような熱を持ち合わせているんじゃないかと、少し疑ったほどに。ああもう熱くて仕方がない。しかし紛れもなく確実に、天使には、彼には体温なんてもの存在しない。私が一人で勝手に熱を作り出しているだけだ。そう思ってしまうと、独りよがりな温もりがただただ寂しく感じられた。

「どうした、イーノック」

そんな寂しそうな顔をして、と。ルシフェルが困ったように笑う。その際ひときわ強く握られた手に脈打つ心臓の意味はまだわからない。大丈夫だから心配しないでくれ、とできるだけ自然に口を動かせど、大天使様に本音を隠し通すのは少々無理があったようだ。嘘をつけ、なんて言いながら怪訝な視線を向けられることはもはや想定の範囲内だった。

「おまえは普段肝心なことしか口にしないが、たまにそれさえしなくなる。いくら私が大天使でも残念ながら万能ではないんだ、言ってくれないとわからないこともある」

そこでルシフェルは言葉を切った。けれど、言わんとしていることはわかる。つまりその顔のわけを、私に話せと。そう彼は告げているのだ。しかし、自分でも確証の持てない、だが確証が持てなくても決して易々と許されるような気持ちではないことははっきりとわかっている。そんな想いを今彼に話すことは、果たして得策と言えるのだろうか。きっと、答えは否だろう。だから、口角を上げて『なんでもない』と取り繕う。