未プレイ時に書いたもの
学パロ
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本当に一目惚れというものは存在するらしい。今この場で、私は身を持って知ってしまったのだ。
今まで友人やテレビなどで聞き及ぶ一目惚れ実体験を右から左に聞き流していた自分を殴りたくなるほどに、それは衝撃的だった。見えている景色がすべて塗り変えられていくような感覚に戸惑いながらも、それが嫌だとは微塵も思えない。私の見ていた世界に突然割りこんできた彼から、どうしても目が離せなかった。今日の小テストのために昨夜必死で覚えた英単語や歴史の偉人が脳内から完全に出て行ってしまって、私の脳と網膜を壇上にに立つ彼が独占していく。高鳴る心臓も火照る頬も全てあの人のため。ああ、奪われた。たった一瞬でこんなにも。

「今日からこの学校に赴任させてもらう、ルシフェルだ。歴史を担当させてもらう。よろしく」

よく響く低い声がマイクを通して体育館内全体に広がる。果たしてこの中で彼の声に聞きほれなかったものはいるのだろうか。これぐらい言っても大げさではないほどに綺麗な声は私の頬の熱を上乗せする。耳まで彼のものになってしまったようで、聴覚は彼の声にばかりに反応していた。故に、彼が紹介された瞬間、体育館内がざわつきと黄色い悲鳴で染まっていたことなんて知る由もなかった。彼に心を奪われたのは、私一人というわけでは断じてなかったのだ。容姿、物腰、雰囲気だけで、壇上の彼は大勢の生徒たちの心を掴んでしまった。誰から見ても、あの人は魅力的だった。
その後の小テストは案の定ひどい有り様で、私はどの教科でも解答欄を半分以上埋められなかった。暗記したものを思い出そうとしても、浮かぶのは彼の顔ばかり。確かルシフェル先生だったか。ああどうして名前まで綺麗なんだ、反則じゃないか。あの人のことを思い出すと胸が締めつけられるような感覚が襲ってきて、慣れないものに戸惑いながら帰り支度をしていたそのとき。
がらりと教室の扉が開かれる。ふと見やった視線の先には、朝壇上に立っていた、彼の姿があった。彼が着用している漆黒の髪と同様に黒いスーツは、ただのスーツのはずなのにまるでファッションの一つとして成り立っているかのようだ。赤い瞳に一瞥されれば、その瞳に引けをとらないほど自身の頬も赤く染まる。筋の通った鼻といい薄い唇といい、すべて美しく一切の無駄が見られない。そんな彼が教室内に入ってくるということ。それは女子、果ては男子の視線を惹きつけるには充分だった。噂のイケメン教師が来た、と方々で上がる黄色い歓声。ただ黙って息を飲む者もいた。私はといえば、もちろん後者だ。
彼、ルシフェル先生は教室内をぐるりと見渡し、ある一点に目を留めた。それと同時に、私に集まる周囲の視線。つまり彼は私に焦点を定めた、わけだ。嘘だろう、こんな教室の隅にひっそり佇んでいる一生徒の何に注目する必要がある。気のせいだと思ったのだが、周囲のクラスメイトたちは彼の視線を辿ったのち私に辿り着いているわけだし、何より今、先生と目が合っている。綺麗な赤色は、気のせいでもなんでもなく、明らかにこちらをじっと見つめていた。さらに彼は、私の机に向かって歩いてくるじゃないか。何か反応をとろうとしても体が言うことを聞かず、ただ黙って棒立ちになるしかできない。そんな私を視線で捉えながら彼は微笑を浮かべて、やがて私の目の前で足を止めた。