龍ノ介の子供と亜双義
龍ノ介まったく出ない
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ぼくの家にはたまに異国からのお客さんがやってくる。髪がくるくるしてて言うこととやることが子供みたいな探偵さんとか、顔がすこし怖くてあんまり喋らないけどすごく優しい死神さんとか、髪が桃色ですごく賢い小説家の女の子とか、本当にいろいろな人がやってくる。その中でも一番よくやってくるのは、父上の大親友の『あそうぎ』さんだった。
あそうぎさんはぼくをよく散歩に連れて行った。今日は近所のすすきがたくさん生えている野原を散歩しようと言われた。秋の夜なのに今日は夏みたいに風が温かい。丸い月がきれいにあそうぎさんの頭の上に浮かんでいた。ぼくはずっとそれを見ていた。
「前を見て歩け。転びたいのか」
斜め前を歩くあそうぎさんがそう言ったからぼくは前を向いて歩くようにした。あそうぎさんの着物の袖がひらひらと揺れている。あそうぎさんはこっちを振り返ると、すこしだけ口を横に広げた。
「学校はどうだ。楽しんでいるか」
「うん」
「オレの名字はもう書けるようになったか?」
「……亜と双は簡単だけど、義は線がいっぱいだからあんまり書きたくない」
「はは。オレも昔はそう思っていた」
あそうぎさんが笑うのと同時に鈴虫の声が大きく響いた。すすきがざわざわ揺れてすこしうるさい。でもあそうぎさんの声はよく通るから、次の言葉もちゃんと聞き取ることができた。
「だが、義という文字は案外この世に必要なものだ。義理も正義も大義も義がなければなりたたぬ。きちんと覚えておけ、そうすればきっと今後の人生の道標になる」
あそうぎさんの言うことはすこし難しかったけど、何か大事なことを言ってるんだろうな、ということだけはいつも感じた。だからぼくはそれを忘れないようにいつも心の中で何度もあそうぎさんの言葉を唱える。漢字もいっぱい練習しようと誓った。あそうぎさんはぼくをちらと見たあと、機嫌が良さそうに微笑む。
「おまえは父上に似て素直だな」
そう言って彼はぼくの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。痛いよと言ったら野原に響くくらい明るい声で笑い出す。あそうぎさんはいつもぼくに優しくて、まるで自分の子供みたいにぼくに接してくれる。ぼくもあそうぎさんがもう一人の父上に思えるときがたまにあるくらい、あそうぎさんは話しやすくて好きだった。
「あそうぎさんは自分の子供をつくらないの?」
ふいに気になって、なんとなくそう質問した。あそうぎさんはしばらくの間なにも言わなかった。ただ、ぼくをじっと見ている。すすきが揺れる音が大きくなったような気がした。少ししてから、あそうぎさんはまたぼくの頭を撫でる。「そうだな」と小さく呟いてからまた大きな声で笑った。
「いい頃合いかも知れぬ」


それから何十年かが経ち、ぼくが「義」を目をつぶっていようと書ける程に歳を取った頃。亜双義さんは多くの家族に囲まれながら静かに息を引き取った。老衰で眠るように、という理想的な絶えかただったのだそうだ。
ある日、遺品を整理していると手紙が出てきた、と亜双義さんの親族の方に知らされた。なんでもぼく宛に手紙が残されていたというのだ。亜双義さんの息子さんから手紙を受け取り、何が書かれているのかと思案しながら帰路へと着く。帰宅してから真っ先に封を切り文面を読んで、最後の文字を読み終わる頃にはぼくはなんだか安堵してしまっていた。彼はぼくが昔から憧れた彼のまま天へ昇った。きっと父も、それを理解している。



マジで誰得なんだよ!俺だーー!!!(宇宙を破壊)
いつかオチかきたいね