「あんたの初恋って誰なの?まさかヤン提督じゃないわよね」紅茶を吹き出したぼくに彼女は汚いわよと呟く。君のせいだろ。「どうしたらそうなるんだ」「違うのね?」「違うよ」「じゃあいいの。もしそうだったら最悪だったわ。勝ち目がないもの」赤い顔で言うものだからぼくまで照れてしまった。
(ユリアンとカリン)

すべてを終え、妻に感謝も告げ、そしてようやくたどり着く。最果ての天上に、夢の終わりに、そして此処に。「ユリアン、帰ろうか」「紅茶を淹れてくれ。やっぱりお前のが一番だよ」はい、とぼくは返事をする。だってすべて終わったのだ。ああぼくは、ぼくはようやく!もう一度、あなたの傍に!
(ユリアンとヤン)

転がるボールを追いかけてくる孫の足音が聞こえる。向こうからはそれを静止する息子と娘の声、そして楽しげに笑うカリンの声が聞こえた。ふとフレデリカさんが昔言っていた『あの人』らしい亡くなり方についてを思い出した。提督、どうやらあれはぼくの未来図だったようです。…良いものですね。
(ユリアン)

「ここに居ましたか。あまりうろちょろせんでください」「何だシェーンコップ。まさか私を探していたのか?」「ここに着いていの一番に閣下の元へ馳せ参じましたよ」「そんなバカな。真っ先に会いに行きたい女性とか、君になら当然いると思っていたんだが」「意外ですかな?いや、分かりますとも。私自身でも意外なのですから。しかし天上で付いた自由の羽は私を閣下の元へ運んだわけです」「それはそれは。光栄と言うべきか奇妙というべきか」「口が悪いですな、閣下」「まあいい。久々に会えたことだし、積もる話も多いしな。…そうだシェーンコップ。ここではもう戦争もなければ軍隊もないのだから、敬語はもう取り払ってくれて構わないんだが。むしろ貴官…いや君、…あなたのほうが私より年上なんだから、私がそちらに敬語を使うべきだろう」「ああ、そりゃあ素晴らしいお心遣いですが、失礼ながらお断りさせていただきますよ。閣下にあなたなどと呼ばれると肌が粟立ちますものでね。どうか変わりない呼び名でお呼びください」「はは。貴官の減らず口に免じて了解するとしよう」
(ヤンとシェーンコップ)

「父さん、俺が望むのは今までの世界でもこれからの世界でもない。もっと別の、俺が作りあげる新しい世界だ」父親とあまりにもよく似た声が俺の鼓膜に降りかかる。それと同時に振り上げられたナイフは正確にこの心臓を貫いた。ああ今になって、ようやくお前は俺を裁くのか。遅いじゃないかロイエンタール!
(フェリミタロイ)

「遅すぎるぞ。もう何本ボトルを空けたか忘れてしまった」「疾風ウォルフの名もこれで返上だろうな」「気恥ずかしい渾名を捨てられて良かったじゃないか。さあグラスを持て」「乾杯の音頭はどうする?」「プロージットは戦争を思い出すからやめておこう。俺たちの戦争はもう終わった。グラスも割るなよ、俺の気に入りだ」
(ミタロイ)

「提督。あえて、あえて言います。そうやってあなたが着たくもない軍服を着てしたくもない仕事をして、そして死にたくもない場所で死ぬのは、それはあなたが嫌うところの宿命にあたるとは言えませんか。いや、この際はっきり申し上げますよ。こんなものは宿命だ!そうでなければ、……そうでなければ。おかしいじゃないですか、提督。あなたに何より似合わない死が与えられたというのに、……」
(ユリアンとヤン)

「お前の毛は血みたいな赤だ」「ええ、ひどいぞ」「怒るなよ、綺麗だって言ってるんだ。それに僕なんていつも本当の血をよく浴びてるからな」「ラインハルトは無茶しすぎなんだよ」「フフ、なあキルヒアイス。お前には赤が似合うが血は似合わない。お前の赤に血が混じらないよう、僕が傍にいるからな」
(赤金)

さて此処はどこだろうか。何の音もしなければ景色も見えやしない。もしヴァルハラというのであれば、我々はずいぶんたいそうな夢を見ていたんだな。そう考えながら腕を頭の後ろで組みため息をつく。こうなってしまえば今までの戦火や閃光も嘘のように思えた。一見宇宙とよく似ているのに全く違う。…あそこは騒がしかった。「帰りたいな、うちに」そう言っている間に光が見えてきた。此処も悪くはなかったんだがな。
(ヤン)

「白兵戦が俺より少しばかり得意だからといって調子に乗るのは許さんぞ!」冗談めかしてそう言ったラインハルト様はベッドに寝ていた私に勢いよくのしかかってきた。子供の頃のように脇腹などを擽られ、おやめ下さいと笑いながら言葉を紡ぐ。しかし、いろいろと昔のようにいかない事は、果たして理解しておられるだろうか。いま私がその頬に一度触れるだけで、すべての意味が変わってしまうのだが。……きっと気づいておられないのだろうな。「キルヒアイス、考え事とは余裕だな。この俺が怖くはないのか!」「ふふ、はは、おやめ下さい、畏怖しておりますから、ご勘弁を」
(赤金)