名探偵も人間だ。たまには捜査中に対象にまんまと見つかり拘束され、こうして拷問にかけられそうになることだってある。今回の犯人の部下であるというその男は、イスに縛り付けられたボクを見つめながら恍惚の笑みをじっとりとその顔に浮かべていた。おそらくシュミの合わない人種だ。善だ悪だという話を持ち出す気はないが、きっとその性根がボクの好みじゃない。
「シャーロック・ホームズと言ったか?探偵だそうだが、拷問を受けるのは勿論初めてだろう。大丈夫、最初は爪を剥がすくらいのところから始めるよ。さてどの工具が良いか……」
楽しげに語る男は重そうな工具ばかり入った箱を何やらがさごそと漁りだす。彼の言うとおり拷問の経験は初めてだ。爪を剥がすというのはよく耳にする方法だが、やはり使い古されているだけに結果が芳しいのだろうか。そう思考していた時、目の前の男の背後にぼんやりと人影が見えた。よく目を凝らしてみれば、だんだんと見知った人物の顔へとピントが合っていく。いや見知ったどころか、毎日おはようもおやすみも言い合っている人間だ。やあミコトバ。声を出さずにそう口を動かす。彼は音をひとつも立てないまま、ゆっくりと男の後ろを歩いていた。その姿に釘付けになるボクに視線を合わせるなり、人差し指を口につけて「静かに」と口だけで合図を送ってくる。


アンクルパロ