「彼は空洞だ。ああいや、悪い意味じゃなくてね」
ホームズはそう言うと右手で円を作り目で前でそれを覗きこむような仕草をした。
「こうして空洞を覗くと、そこには何が見える?」
「……そりゃあ」
目の前の景色、と私が答えると、そのとおり!と彼は笑う。
「つまり、そういうことさ。彼は目の前にある景色、《真実》をそのまま切り取って見ている。当然のようでいてこれはなかなか難しいことだ。皆この円を狭めたり、そもそも前を見ない者も多いのだからね。でも彼にはそういうずる賢さがない。彼の目は真実とそのまま繋がる澄んだ空洞だよ」

「あの男は光だ。最初こそ微弱ゆえ目視では捉えがたいものだったが、幾度も裁判を重ねるうち少しずつその輝きは頭角を現してきたように思う。……君も見ていただろう。あの奇妙な機械で、女王陛下と共に。あの男は我々の国の司法を目映く照らしつくした。それが良いことだったのか、それは……我々の今後の行い次第で決定するだろう。彼の真実への姿勢に敬意を表し、我々検察は常に真実への誠意ある思想を示していかなければならない。それが私に出来る感謝の表明だ」

「ええ、自分を何かに例えるなら?うううん…難しいね、なかなか。あえて言うなら、餅かな。友人と家族によく「いくつになっても餅のようなほっぺただ」ってからかわれるからね」
「……今までで一番参考にならないの」

さて、私は悩んでいた。今回の情報収集は我が父シャーロック・ホームズの推理に多大なる貢献を果たしてくれた偉大なる日本人留学生、成歩堂龍ノ介をぜひ拙作に恒常的に招きたいと考えた故の行動だったのだが、なかなかどうして我が父とその相棒に張る面白味を持ち合わせているのだ。
「いいんじゃないの?面白いんでしょ?」
「うーん、そりゃあ面白いのは大歓迎なんだけど、主人公はあくまでホームズとワトソンだから」
「ふーん。よくわかんないけど、都合があるわけね」
「うん。なるほどくんはもしかすると、ベツのところでとっくに主人公なのかもしれないの」
「?……ちょっと、あんまりムツカシーこと言わないでよ」
「えへへ。ごめんなの」
そういう訳で、彼を堂々と作品に登場させるのは断念することになった。世間的には密かな彼、成歩堂龍ノ介の大冒險が今後も続くことを願い、私はここでペンを置くこととする。