・ポケモンサンムーン

屋根から落ちそうになってるバカを見つけて咄嗟に腕を掴んでしまった。そいつはオレを見るなりただでさえ丸い目をこれでもかと丸めやがる。「一人ぽっちでオレさまの根城に来てるんじゃねえよ」ブッ壊されてえのかと言って睨むとなぜかガキは笑った。「でもグズマのおかげで壊れなかったよ」
(ミヅグズ)

「オレさまはお前みたいなガキが大嫌いなんだよ」腕につけた弱さの証をさぞ誇らしそうに輝かせていやがるのがあまりにも癪に触る。まだ現実も何も知らない11歳のガキは生意気にオレの前へと立ちはだかり真っ直ぐにこっちを見ている。壊せるものなら壊してみろとでも言いたげな目、ああ気に入らねえ!
(ヨウグズ)

かあさまは気まぐれなひとでしたから、たまに夜遅く帰ってきてからわたしに絵本を読み聞かせてくれるときがありました。そのときのかあさまからは必ずお酒と香水のにおいがしたので、わたしにとってはそれがわたしのよく知るかあさまのにおいです。「リーリエ、明日はあなたが自分で服を選んでいいわよ」「でも、何を着たらいいのかわかりません。わたしはかあさまが選んでくれる服が着たいです」「……まあ、かわいい子!そうね、それじゃあ明日は……」
(リーリエとルザミーネ)


・TOX2

「ルドガー、週末は旅行に行こう」いつもより少しはしゃいだ様子の兄さんが珍しくて二つ返事でOKしてしまった。聞いたこともない遠い場所まで向かって海や川や山や畑を見て回る。ずっと街の中に住んでいたからこういう景色は新鮮ですごく楽しかった。
最終日、兄さんは子供みたいに泣きながら俺の首に手を回す。月の光がその黒い左手を照らしていた。ああ楽しかった、次はどこへ連れて行ってくれるんだろうか。
(ユリルド)

「ルドガー、どうした?またクラスの奴に何か言われたのか。気にするなと言っただろ。まんまるのネコ、いいじゃないか。俺はかわいいと思うが。…なんだ、笑うなよ。俺だってかわいいって感情くらいあるんだ。おいルドガー、怒るぞ?……」兄さん今日は誰と話してるんだろう。俺じゃだめなんだろうな。
(ユリルド)

オムレツ分史ルドガー「俺はジュードに出会ってから人生が変わった。でもジュードはそうだったかって訊くのが怖いんだ。あいつがたまに遠い目をして空を仰いでるとき、いったい誰の顔が頭をよぎってるのかな…」アルヴィン「お前aikoの歌詞みたいだな(わかるぜ、恋ってつらいよな)」


・逆転

「ちゃんと回り道してくださいね」「やってるよ」「早く着いちゃダメですからね」妙な注文ばかりするみぬきちゃんにてきとうな返事をすると「もう!」と言って背中を拳でどつかれた。一瞬よろけてフラフラと蛇行する自転車の後ろにいても彼女はずっと笑っている。残暑はまだ厳しい。蝉の声がうるさい。
(オドみぬ)

「いい度胸ですねホームズ」いつも害のない笑顔をニコニコと貼り付けているだけのつまらない同居人が、今日は何故か普段からは考えられないほどの強い目をしてボクを睨んでいる。「仮にも医者を前にして優雅にコカの葉ですか」「……キミに関係があるのかい?何も迷惑はかけていないだ」ろ、と言う前に体は宙に浮いていた。腕を掴まれたと認識したのはその一秒後、投げられたと認識したのはその三秒後だ。反転した視界の先でさかさまになったミコトバがボクに向かい満面の笑みを浮かべている。「ホームズ、キミは構われている現状に甘えているんでしょう。ですが私もキミのすべてを受け入れるほど大人にはなりきれていなくてね」
(若ホームズとミコトバ)

「日本人だ」221Bと書かれた扉を叩き中に入ると居た若い英国人、彼は私を一瞥するなりそう呟いた。「歳は20代の…前半?いや後半だな、東洋人は若く見えると聞く。指に特徴的な切り傷、医者だ。家族構成は妻と生まれたばかりの娘が一人、だが妻は最近亡くなった」私の眉がひくりと動いたことにも勿論気がついたのだろう。「今のは失言だ。失礼」「……キミは何です」「私立探偵だ。いずれ世界に名を轟かせることになるだろう。さあ入りたまえよ」
(若ホームズとミコトバ)