「お悩みか?"警部"殿」
市街地の階段で座り込むアタシに声をかけてきたのはアソーギ検事だった。ナルホドーの友達の日本人で、昔弁護士を目指してた人。
「ねえ、何で弁護士にならなかったの」
「唐突だな」
「弁護士、カッコいいじゃん。いろんな人のこと助けられるもん」
アタシだって助けられたし、と呟いて膝の間に頭を埋めた。アタシは未だになんにも出来ていない。ボスに報告できるような手柄がまだひとつもなかった。
「なかなか見る目があるようだ。そなたの言葉を借りれば、確かに弁護士、特にあの男は格好良い。オレの誇りだ」
「あの男には正義がある。その上、真実を何よりも大切にしているからな」
遠くを見るみたいな目をしながらアソーギ検事はそう話してる。ふうん、と言うアタシに彼は静かに振り返った。
「オレは一時、己の正義を見誤りかけた。その事実は一生消えることがない。だが逆に言えば、それがあったからこそオレは己の正義についてを再確認することになった。それに、人は簡単に正義を見失えてしまうということも分かったのだ。今は真っ直ぐ己の正義に向かって歩いていると自負しているし、そんな自分を誇りに思っている」
「レストレード刑事。そなたは自分の正義がどこにあるのか、きちんと分かっているのだろう?」
そう言うと、アソーギ検事はアタシに新聞を突きつけた。なに、と呟きながらそれを受け取る。それはなんの変哲もない日刊紙だったけど、そういえばこの号、見覚えがある。一番下だと指し示されて視線を落とすと、心当たりに納得がいった。一ヶ月前、イーストエンドで詐欺を繰り返してた悪いヤツを尾行して、アタシは決定的な証拠を見つけたのだ。上司の命令を完全に無視して動いてたから褒められたのと同じくらい怒られたけど、犯人は無事に捕まってイーストエンドのみんなは救われた。この新聞にはそのときの記事が隅っこに小さく載っていた。
「なんでこんなの持ってるの」
「過去の事件を調べていた時、偶然目に留まってな。ここに小さくそなたの名が書いてある」
「まあ、そうだけど……」
「これがそなたの正義の証だろう」
戸惑うアタシにアソーギ検事は笑った。あ、今の目、ちょっとナルホドーに似てる。
「オレからすれば、貴女もずいぶん"格好良い"と思えるがな」



もし3が出たら亜双義の周りでちょろちょろしてるジーナちゃんが見たい 見たくない?