十五の頃、神は死んだ。母が仏に成られたからだ。骨壺に納められていく白い破片を見つめながら、人間とはこうも小さくなれるものなのか、とひどく他人事のように考えていた。母は父の元へゆけたのだろうか。天国などというところは本当に存在するのだろうか。もし天国があるならば、地獄も同様に存在し得るのか。父は倫敦で五人の貴族を殺害した赦しがたい悪鬼なのだそうだ。父は地獄へ堕ちたのだろうか。聡明で温厚だった父の笑顔を頭に浮かべ、あのような素晴らしいお方になんと似合わない場所だろうと叫びだしたくなった。そしてオレは遂に決心したのである。絶対に、何をしてでも真実を炙り出そうと。

おとうさんおかあさんを大切にしようではないか諸君、と至極当たり前な主張を大声で吐き出す男に出会ったのは勇盟大学に入学してから少し経った頃の事だった。チョコザイなるヘナチョコ、と我ながら散々たる第一印象を抱いたその男にまさかの歴史的大敗を喫したオレはやがて奴とつるむようになり、今や親友と呼べるほどの仲になっているのだから運命とはおかしなものだ。成歩堂龍ノ介は一見地味でウッカリ者で黒くて冴えない男だが、その実まっすぐで誠実で強い男だった。もしかするとこういった男が一等弁護士に向いているのではないかと思う時もある。酒を嗜んだ際そんなことを溢してみると、「やめてくれよ」と奴は苦笑した。
「人の人生を背負うような仕事、ぼくには荷が重いよ。それにおまえのように優秀な男であればすべて任せたいと思うだろうけど、ぼくみたいな頼りない人間に託そうとしてくれる人なんていないと思うし。優秀な弁護士さまにそんな評価をいただけるのは有り難いけど、おまえはぼくを買い被りすぎだよ」
そう言ってはにかむ男に少しだけ苛立ちを覚えた。


またかくかも