ハイパークソ捏造妄想
何か間違ってたらすみません
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「もうすぐあなたのおとうさまが日本にご帰還なされるわよ」そう祖母に告げられた時、わたしは確かに父の帰国を嬉しいと感じた。けれどどこか他人事のようにも思える部分があったのは否めない。祖母に聞かされた『おとうさま』の断片からその姿を想像しようとしても上手く頭に思い描けないまま、刻々と父の帰国の日はわたしに迫っていった。
かっちりとした洋装に身を包んだ男性が大きな洋鞄を手に船から降りてきて、わたしの姿を認めるなり「寿沙都」と静かに呟いた。考えていたより若く小さく、しかし優しい瞳をしている。歓喜や驚きといった目立った感情は特に胸にはわき起こらず、ただ、どこか不思議な心地がずっとしていた。祖母と短く言葉を交わした後に父はわたしを見つめ、じっと閉口している。わたしもなんと言えばよいのかわからず、なんだか緊張すらしてしまいとっさに「御琴羽寿沙都と申します」と妙なことを口走ってしまった。あの時の父の面食らったような顔、それが少しずつ柔らかに、でもひどく寂しげに綻んだのをわたしは十年経った今も忘れられない。
「急に父親と思え、とは言いません。私は長い間おまえをずいぶん寂しくさせました」
しゃがんでわたしに目線を合わせた父がそう口にした。父の下がった眉を前に、幼心ながら父をかすかに傷つけてしまったことを悟る。なんとかこの方を笑顔にして差し上げたい、と焦って発した一等はじめの「おとうさま」は不格好に上擦ってしまった。今思えば、すこし大袈裟だけれど、あれがわたしの『御琴羽悠仁の娘』としての自我が生まれた瞬間なのだと思う。

おまえを誇りに思いますと言って父が笑う。不思議なことに成長した今のほうが昔よりも父のことを大きな人だと感じる。この方の誇りに成れることが、ああどんなに素晴らしいことか!頷いたわたしを見つめる父の優しげな瞳は昔と少しも変わっていない。