何の因果か死んでしまって、またもや何の因果か化けて出てしまった。オレが生前使っていた椅子と机に座り何事かを行っている成歩堂は、化けて出たオレの存在に未だ気づいていない。この男、確かオバケが苦手だとか言っていたな。さてどうすべきか。急に現れると心臓でも止まってしまうのではないだろうか。
「んんっ……」
一段落ついたのか、成歩堂は大きく伸びをして体を逸らす。机に置いてあったシベリアを一口含むと、不意に立ち上がりこちらに振り返った。ああまずいと思うが、こうなれば最早やむを得ぬ。第一ここはもともとオレの部屋だったのだから、隠れるのも筋違いと言うものだ。などと考えている間に成歩堂がオレの存在を認めたのか腰を抜かした。
「なッ……」
わなわなと震える指先がゆっくりとオレを指す。先日の法廷で見たものとはまったく似つかない、情けのないつきつけ方だった。大きく開かれた瞳がオレをじっと凝視している。動揺の大きさ故か『あ』の一文字だけをいつまでも紡ぎ続けている様はさながら肉食動物に対峙してしまった小動物の有り様だった。
「あ、あ、亜双義……?」
「亜双義だ」
「しゃ……」
喋った、と呟く声はさらに震えた。このまま気絶でもするのではないかと思うほどの驚きようだ。