ガタ、とそれなりにでかい音を立てて椅子から立ち上がると、終一はオレの胸ぐらを掴みそのまま荒っぽくキスをしてきた。たどたどしい舌の応戦はただの経験不足か余裕がねーのか、唾液が垂れるのも構わず口の中をまさぐる様は探偵らしい知性も何もねぇ。窓のある壁際まで押され、そのままずるずると地べたに座らされてからは終一の目の熱が温度を増した。口を離したかと思えば唇は首筋へ向かい、痕をつけるために強く吸われる。帰るときどうすんだ、とか、考えるのすら億劫なのか。
めったに人の来ねー倉庫みてーな部屋の前の廊下から聞こえる足音はひとつもない。終一とオレの息、あと布の擦れる音だけがやけにうるさく部屋に響いた。窓の外からはグラウンドで野球をしている奴らの声がわずかに漏れ聞こえてくる。カキン、と金属の音がして、はしゃぐ声と焦る声が同時にあがった。相当でかい当たりなんじゃねーか?誰が打ちやがったんだ。そういうどうでもいい考えも、終一の指が震える手でシャツを外していくのを見るうちだんだん霧散していった。だが助手を前に自分をなくすわけにもいかねー。窓が開いている危うさに気がついていないわけじゃなかった。手を伸ばして開いた窓に指を掛け、右にスライドさせ閉めようとする。そこで唐突に、終一がオレの腕を強く掴んだ。