「今日は静かだね」
ふと春川さんがそう呟いた。周りでは個性的な人達が今日もざわざわとはしゃいでいる声が聴こえるけれど、僕らの間は彼女の言葉どおり本当に静かなものだった。それはまあ、仕方がないといえば仕方がない。僕も春川さんも積極的に話しかけていくほうではないし、何より今日は台風の目がいないのだ。食器のぶつかる音だけがやたら大きく耳に響く。
いつもどおり三人で学食を食べようと百田くんに誘われたものの、昼休みが始まったとともに彼は「隣のクラスに用がある」と言ってどこかに立ち去ってしまった。おそらく誰かに頼みごとでもされたんだろう。それならしょうがないと納得しつつ、同じく取り残された春川さんにそろそろと目を向けた。僕と百田くん、春川さんと百田くんが二人きりというのはよくあるけれど、僕と春川さんが二人きりという状況は今まで数えるほどしかない。黙っているままでは気まずいけれど、どういう会話をしたらいいのかもよくわからなかった。ここに赤松さんが、最悪王馬くんでもいてくれればまだ空気が緩和されているのだろうか。……いや、王馬くんは悪手すぎるな。
「本当に静かだね」
面白味のない返事だっただろうか、と少し後悔した。でも、面白味のあることを言うほうがむしろ危険だったかもしれない。