ベッドに深く沈みこんだ百田くんの体がシーツに皺を作っている。いつもの上着を脱いで露わになっているTシャツの肩口からさらに視線を落とすと、ほぼ白地のそれは胸のあたりまでめくれあがり肌色を露出させていた。綺麗に隆起した彼の筋肉が呼吸に合わせてゆっくりと上下している。どうしてこんな、彼の肌に僕は今向き合えているのだろう、と少し考えて、こうして彼のシャツを胸元までめくりあげたのは自分そのものだと遅れて得心した。もう熱で頭がどうにかなりそうなのだ。今はすでに真冬だというのに、全身が真夏みたいにずっとじわじわと火照りつづけている。
百田くんの顔の横についている自分の手のひらにはもうかなりの汗がにじんでいた。彼は細めた瞳で僕を静かに定めている。触れるたび口から控えめに吐息をもらし体を小さくよじる様はあまりに新鮮で、目の毒にも程があった。今彼は宇宙でも世界でもなく僕の部屋の僕のベッドの中にいるのだという事実が、僕の緊張と彼の姿を根拠とした状態ではっきりとつきつけられている。百田くんの胸の下あたりにそっと口づけて、そのまま唇をへそのほうまでずらす。頭上からは息を詰める気配がした。普段温泉だとかはみんなでよく行くから裸なんて見慣れているはずなのに、触れるとこんな反応をしてくれるだなんて知らなかったから、いつもとまったく別のものに見える。百田くんがこうやって触られると手の甲で口を覆うようにするのを知っているのはきっとこの学園で僕だけだ。だからどうだ、という話ではないけど。……いや、そういう話か。
ベルトを解いてそのズボンの前を勝手に寛げても、百田くんは僕を咎めはしなかった。けれどいざ触れようとしたとき、終一、と柔く名前を呼ばれる。優しい響きではあったけれど、もしかしたらそれは咎めの言葉なのかもしれなかった。ああやっぱり僕が僕である限りは、ここまでは踏み込むことは許されないか。そう思い手を引っ込めようとしたときだった。百田くんが、僕に向かって手招きをする。おそるおそる顔を彼の正面に近づけると、その暖かい手が僕の頬をそっと覆った。
「緊張してんのか?」
百田くんの眼差しはいつもと変わらず力強くて、でもいつもより少しだけ柔らかかった。大丈夫だよ、と言って安心させたかったけれど声すらうまく出せない。百田くんは太陽のような笑顔で僕に笑いかけると、心配すんな、と言い放った。
「オメーはオレの助手なんだぜ?怖がんな、胸を張れ!余計な心配なんかしなくってもオレがオメーの全部を受け止めてやるからよ」
「……うん」
こんなときでも強がられてしまうんだなあ、と少し悔しささえ感じてしまう。でもその態度にひどく安心してしまうのも確かな事実で、ままならないまま僕は彼の手のひらにゆるく頬を擦り付けた。百田くんはなんだか満足気にその口角を緩める。嬉しそうだな、……実際嬉しいんだろうな。そう思うと少しだけ気が楽になって、僕は百田くんの手に自分のそれを重ねた。
「ごめん」
「謝ることなんか一つもねーだろ」
「うん」
懇願を含んだままの眼差しをじっとぶつけると、百田くんはそれをしっかりと受け止めてくれる。ゆっくりと顔を近づけたのちに唇を触れあわせると、柔い感触がそこに伝わってきた。今顔を離してもきっと百田くんは笑ってくれている。三年間彼の傍にいたんだ、彼の優しさも強がりも見栄も僕はもう知っているし、それに付き合うことだってできるのだ。そう思いながら唇を離せば、やっぱり百田くんは笑っていた。あと一月も待てば卒業なのに、僕らは一足はやく春を駆けていく。ここではない桜並木の下でも百田くんが笑ってくれているようにと、だめ押しのように祈りながら僕は彼の深い場所にそっと触れていった。


という夢を見たから勢いで書いたけど直後にインポになった