V3体験版時空
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モノクマの仕業で何故かボクと日向クンと赤松さんで共同生活をすることになってしまった。問題がありすぎてもはやどこから手をつければいいのかまったくわからない。部屋に入りなる黙りこくってしまったボク達はしばらくベッドだったり椅子だったり床だったりに座って物思いに耽っていたけど、やがて赤松さんがおもむろに立ち上がり「シャワー浴びてきていいですか」と死にそうな顔で切り出した。え、そんな急に成年向け漫画みたいな……とすごい勢いで日向クンと顔を見合わせたけれど、そりゃまあ普通に考えれば女の子だしお風呂には入りたいよな、とお互いひとまず平静を取り戻す。ここに来ていろいろなことがあったし、そりゃあ一人の空間でゆっくり物を考えたくもなるだろう。
聞こえてくるシャワーの音にいやに耳を澄ましてしまいながら、何故か日向クンと二人ベッドに並んで腰掛けている。日向クンはとても神妙な面持ちで肘を膝に付き指を組んで考え込んでいた。ボクはずっと床を見ている。床のキズの数を数えている。考えることは本当にたくさんあるから、あるだけに、現実がもやもやと形を変えて掴み所がなかった。
「なあ、苗木」
不意に日向クンがボクを呼ぶ。振り返ると、日向クンは眉間に皺を寄せながらボクを見ていた。悲痛な面持ちだ。そうか、日向クンは今の現状や今後のことを逃避せずにきちんと考えているんだ。ボクも前向きだけが取り柄なんだし、逃げずにきちんと考えていかなければならない。こういうところはさすが先輩だな、と思いながら「何?」と返事をする。すると彼はボクから視線を外し、「正直に答えてくれ」と呟いた。
「お前童貞か?」
あ、違った。日向クンはこの現状しか考えていなかった。『男女が一部屋』というこの状況をバリバリに意識してしまっている感じが雰囲気でわかりまくる。言葉の真意を閃きアナグラムで読み取るとつまり「お前こういう経験ある?」といったところだろう。こんなことで推理するのもバカバカしくはあるけど。しかもその目の前の動揺にあてられてか、遠退いていたシャワーの音がまた鼓膜を震わせに戻ってきた。
「俺たち仲間だろ?隠し事は無しだぞ」
「いや、うーん」
何となく答えづらくて曖昧な返事しか出来ない。日向クンの表情はわりと鬼気迫っていた。
「ええっと、そういう日向クンはどうなの?」
「……俺か?」
呟くなり日向クンは俯いてしまい、そこから大きな沈黙がボクたちの間に横たわった。険しい顔は隠しきれない哀愁が漂っている。
「童貞なんだね……」
「勝手に決めるな!!」
希望のカケラ回収イベントで狛枝クンに叫んだが如く吼えた日向クンは、しかしその後意気消沈したかのように項垂れてしまった。日向クンはここ最近まで体も脳味噌も忙しなかったから経験出来ていなくても仕方がないんじゃ?と思うけどそういう話ではないんだろうな。一種男のステータスみたいな問題だし。なんと声をかけるべきか迷っていると、やがてその顔が覚悟を決めたかのようにバッと上がった。日向クンの手がボクの肩を勢いよく掴む。
「苗木、確かに俺たち童貞にこの環境は刺激的過ぎるかもしれない」
「いや日向クンこそ勝手に決めないでよ」
「でもいろんな死地を切り抜けてきた俺たちなら、きっと大丈夫だ!俺たちならきっと理性だって……未来だって創れる!」
名台詞をなんてしょうもないところで使っちゃうんだ。そう言いたいけれど日向クンの眼力の強さにツッコミが飲み込まれてしまう。とりあえず頷くとゆっくりとした首肯が返ってきた。顔の近さから来る圧がすごい。軽く肩を押して距離を取りながら、まあまあ、と苦笑いをした。
「ここで動揺してたらそれこそモノクマの思う壺だよ。ボク達が協力してお互いを監視し合ってれば大丈夫だと思うし、もし本当に我慢ならないときは代わりにボクを襲ってくれればいいし……なんて。アハハ」
場を和ませるべくちょっとした冗談を口にしてみる。お前で興奮できるかよ、なんて言って笑ってくれれば成功だ。笑顔を貼りつけながら日向クンの軽快な笑い声を待った。しかし、笑い声どころか日向クンの顔からふっと表情が消えてしまった。


このあと滅茶ックス未遂