「食うか?」
「え?」
ハワイのビーチの水平線に夕陽が落ちていく、なんて非日常的な様子を眺めていたら、唐突に隣の祐介がそう声をかけてきた。顔をそっちに向けると食べかけの海老が皿の上にぽんと乗っている。しっぽの存在感が大きい。
「お前、海老好きなのか」
「見た目も味も興味深い。食わないのか? 美味いぞ」
「いや、いいよ。お前が全部食べてくれ」
普段うちのカレーを真に迫りながら食らっているこいつの胃袋事情を知っている身で「少しもらってもいいか」だなんて言えるわけもない。祐介は「そうか」と淡泊につぶやくと海老を黙々と食べはじめた。
もうすぐ陽が完全に落ちる。そろそろ竜司たちや先生に呼ばれてしまう頃かもしれない。別々の高校だから、祐介とは別々に帰らなければならないな。普段はそんなことあたりまえなのに今は妙に名残惜しいと思った。お互い女でもないのに、おかしな感覚だ。
「美しいな、ここは」
ふと祐介がそうつぶやいて、海老のしっぽの残った皿を砂の上に置く。いつものように手でフレームを作って、落ちていく橙をその視界に収めていた。
「こう言っちゃ何だが、嵐が来て良かったのかも知れない。こうして海を見ることが出来た」
「ロスにも海はあるんじゃ?」
「あるが、きっとこっちのほうが綺麗だ。お前たちがいるからな」
自然に、当たり前のようにそう言い放った。注意していないと聞き逃してしまいそうなさりげない言葉だった。
「美しさというのはきっと、感情にも起因している。サユリを見ればそれが分かる。お前たちのおかげで、きっとまたいい絵が描ける」
濃い橙を頬に乗せた祐介の、細められた眼差しがこっちに向けられる。本当に何から何まで非日常だ。