「俺がお前に出来ることをずっと考えていた。どうしたらお前の存在を取りこぼさずに済むのかとずいぶん悩んだ。倫理なんて目に見えないものはもうどうでもよくなっていたんだ、ただお前が生きているだけで俺もうまく息が出来る気がしていた。気づいてるだろう、これは最初から最後まで俺のエゴなんだ。お前の思いすら度外視していた。そんなことは本当にどうでもよかった。俺はずっと、ずっと悩んで焦って嘆いて、どうすればお前に気兼ねなく触れられるのかとずっと、ーーでも答えなんてないんだ、こんなことに。お前は、お前も法に則って見ればただの悪だ。きっと助からない。それがこのゲームの掟なんだ。ならばせめてお前の命の火がながく燃えるよう、俺はお前から俺を奪うよ。それがお前の実りになることを願う。……好きだったよ、明智先輩」
俺から拳銃を奪った傷だらけの男は虚ろな目をしてそんな長口上を口にし、頭に銃を突きつけた。後は轟音、貫通した銃弾は無機質な音を立てて床に転がり落ち、鮮やかな遺物を撒き散らして男は机に突っ伏す。全てがたった一瞬の出来事のように思えた。頭がついていくはずもなかった。怪盗団のリーダーが拳銃自殺。顛末としては何の問題もない、むしろ殺す手間が省けたとさえ言える。それなのにどうして俺の頭はこうも空虚に透いている。どうして全てが消え失せたような思いに囚われている。
こいつは死の間際、俺に同情を差し向けた。可哀想な明智吾郎、お前を救ってやろう。先の言葉を要約すればそうだ。俺は、こいつの自己満足の対象だった。俺たちは互いを道具として見ていた。取って付けたようなこいつの告白は、笑えるほど陳腐だった。明智先輩だなんて良く言えたもんだな。吐き気すら込み上げる。お前の道具になるのだけは死んでも御免だ。お前は俺の道具なんだよ。道具が持ち主を思い通りに操れると思うな、クソ野郎。
男の手から滑り落ちた銃を拾い上げ、血を拭う。何もかもバカみてえだ、汚い空ばかり見て無駄な生涯を送った。男を真似るように拳銃を頭に突きつける。まだ弾は残っていた。
「ざまあみろ!」