お題「男のいたずら」
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朝、いつものように大学の門を抜けた瞬間、何者かの影がオレの前を横切った。それを認識した途端に目の前で勢いよく合わせられる手、に加えて起こる破裂音の類似。視界が一瞬ちかちかと瞬く。
「はは、猫だまし」
そう言って、オレの前に現れた男――成歩堂は悪戯を成功させた童子のように得意げに笑った。ほう、成る程。そう胸中で呟き、オレも微笑みを返す。
「不覚だが、今回は不意を突かれたな」
「そうだろ? これで驚かないヤツはいないと思うんだよ、ぼくは」
そう言って満足げな顔を浮かべる成歩堂の顔を目に焼き付けたまま、迎えるは放課後。すっかり濃い橙に染まった辺りの端に親友の姿を認める。背後から名を呼びかけ、こちらに顔を振り向かせた。もう学生もまばらな時間帯だ、成歩堂はオレの事にもすぐ気がつく。どうした亜双義と問うその無垢な瞳に近づき、肩を掴み体ごと振り向かせた。頭上に疑問符を浮かべる男の唇を、さらなる困惑に導いてやる。触れたそこはぬるま湯のような温度で、少しかさついていた。二度ほどの瞬きののち、すぐに口を離す。唖然とした成歩堂の表情はもはや筆舌に尽くしがたいほどには愉快だった。
「驚いたか?」
「……そりゃ、まあ」
驚いたけど、と呟く顔がみるみるうちに赤く染まっている。どうやら今回は、オレの勝ちらしい。